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『父さん、僕を独りにしないで!』
泣きじゃくる少年。その少年の父親は布団から腕を出すと、息子の頭を優しく撫でた。
『お前は独りじゃない。ナツキちゃんがいる。それに、新しい友達ももうすぐできるから、安心しろ。お前を独り、残していくことはしないから』
それでもたった一人しかいない肉親を失った悲しみは、まだ十を過ぎたばかりの少年には大きかった。
山に棲む魔物に対抗できた唯一の父親が死んで、息子には身を守る術がなくなった。ナツキという村の友達が家へ来ないかと誘ってくれたが、ナツキの父親が反対した。少年のことを、山に棲む得体の知れないものとしてずっと訝(いぶか)っていたのだから、当然といえば当然か。村に住むことは許されたが、村人たちも村長の意見を受け入れて、少年を本当の住人として見てはくれなかった。
『僕は独りだ』
父親が言っていた新しい友達などもできなかった。自分を安心させるためについた嘘だったのだと気づいたのは、村で生活し始めて間もない頃。
ナツキだけが味方だった。誰からも受け入れてもらえず、独りだった少年の心は彼女に救われていた。ナツキがいるだけで、少年は心の安らぎを得られていたのだ。
しかし。
『お前はこの村には必要のないものだ』
見下げた瞳。煩わしそうな表情。ナツキにもらう安心感を食いつぶすように、村人は重圧を与えてくる。ナツキの優しさをもってしても、少年の心は癒されなくなり、それからほどなくして、少年は姿を消す。
二月の、薄氷(うすらい)が張る頃だった。
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