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男はシンタに向けていた視線をまたハンへと向ける。焦りを覚えたハンの顔を見てほんの少しだけ破顔した。
それを見ただけで、ハンは突然わきあがってきた焦りがすっと消えていくのを感じた。
(なんなんだ)
「この男は俺が村へ連れて行く。護衛は無用だ」
「あ、そうか? じゃ、じゃあ頼む」
それだけ聞くと、男はシンタに手を貸してなんの未練もなくその場を立ち去ってしまった。
男が行ってしまうと、今までハンを支配していた思いが嘘のようになくなり、今度は淡い寂しさを覚えた。
会えて嬉しく、悪い印象を持たれたくなく、笑みに安堵し、別れは寂しい。この感情は……。
「俺は恋する乙女じゃねっての」
見られて恥ずかしいわけではないし、顔が赤くなったわけでも、心臓が早鐘を打ったわけでもない。こんなものが恋とは到底思えないが、自分で導き出した答えに、ハンは自分で呆れてしまった。
「……変なやつ」
男も、そして自分も変。
「黒髪と……紫の瞳は珍しかったな」
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