第3話 冷風と共に現れし男

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「不肖とは?」 「あ、ああ、気にせんでください。親の言うことを聞かない反抗期、というだけです。それより、先ほどの話、考えてはくださいませんか?」  ナツキは俯いたまま下がって、やっと顔を上げた。離れれば別に問題はない。 「悪い話ではないですね。しかし私の力が及ぶかどうかは分かりませんよ」 「ああ、いいのです。できる限りやってもらえればそれで」 「……捨て駒ですか?」  口をつけて離し、その猪口(ちょこ)を眺めながら言う男に、ハルキの媚びた顔が一瞬固まる。  男はハルキを見ていない。代わりに薄っすら口角を上げて笑ったのを、その一瞬の嘲りを、近くにいたナツキだけが見ていた。  しかしそれも、すぐに元の状態に戻っていたので他の人には気づかれていない。 「冗談です。では明日、早速その山へ向かいましょう。誰かその娘たちのところへ案内してくれれば迷わずにすむのですが……」 「ああ、それなら心配いりません。ナツキが」  話がいけない方向へ進んでいるような気がしてきて、ナツキは二人の会話に口を挟む。 「ねえ、お父さん。一体何の話をしてるの?姫たちに会いに行くってまさか……」 「そうだ、お前が姫とか言ってるあの化け物どもを山から追い出していただくんだ。決まってるだろう?」  溢れる悲しみと怒りで、ナツキは反射的に叫んでいた。 「なに言ってるのよ! 違う! 違います、お父さんの言っていることは全部でたらめです!」  ハルキを睨みつけてから、ナツキはいつの間にか男に訴えかけるような眼差しを向けて、にじり寄っていた。
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