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「何をおっしゃっているのか、よく分かりませんな」
「恨みとは、表からは見えずとも、裏では育っているものです。知っていますか?ここより栄えた国では独裁者は新しい者が上に立つ時、必ず首をはねられるんですよ。相当な恨みを買っているためにね。それを独裁者も知っているから、権力を維持しようと意固地になって悪循環。今はその姫たち、の存在が村人の意識を団結させていますが、いずれ邪険にしたツケは回ってきます。……まぁ、ここはそうならないかもしれないし、なるかもしれない。ただの忠告と受け取ってください」
焦りから、ハルキの顔が段々と青ざめていく。身に覚えがあるのだろう。
「こ、この話はなかったことに……」
都合が悪くなれば、掌を返して白紙に戻すのも彼の自己中心的な性格を表したやり口。この短期間で、男はハルキをかなり分析している。
「あれだけの宴会を皆の前でし、依頼しておいて、それはおかしな話になりますね?」
「……」
「恨みを増幅させてあなたの命を危険にさらすか、身内を犠牲にして村の懸念を排除し、村人を救うか。簡単な話じゃないですか。ナツキさんをここにいる間貸すだけで、信用を取り戻せるかもしれない」
一度ではすまない、というハルキにとっては爆弾発言に等しい言葉が、彼の顔をさらに歪める。
対照的に男は、わざと穏やかに笑って見せた。
「ご心配なさらずとも、悪いようにはしませんよ。彼女が私のことを気に入ってくれるのなら、この村から連れ出す、という道もありますし。それならばなんの問題もないでしょう?」
男はハルキにとって痛いところを確実についていく。
動揺と困惑と苦悩に苛まれている村長の顔を見て、男の形のいい口元にうっすらと揶揄の色が乗った。
「さあ、答えを」
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