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「……あの」
分からないまま、ナツキの前に腰を下ろした男を目で追う。向かい合った。
「君の父親は薄情だな」
男の口から出た最初の言葉はそんなことだった。
いきなり何を言い出すのかと思ったが、ハルキをよく思っていないのはその言葉から読めた気がしたので、意見があったと思ったナツキはここぞとばかりに声を張り上げた。
「そうなんですっ分かります?薄情なんです私の父!」
男の方は予期しなかったのか、身を乗り出して訴えるナツキに少し驚いていた。
「村を守ってくれる姫たちを邪険にして娘の私の言葉に耳も貸さない。薄情者ですあの人は!」
「違うよ」
「へ?」
今度はナツキがほけっとした。
男は窮屈な襟元を何気ない仕種で開けて、息を吐いた。
「娘を想う心はまだあるようだが、結局自分の保身に走った。娘よりも自分を取ったことに言ったんだよ」
「?」
言っている意味がよく分からない。
「あの」
男はまだじっとナツキを見て離さない。何だか真剣な顔をしている。
見つめられるとやっぱり恥ずかしい。
「お、恩人さん?」
「ソウ」
「え?」
「俺はソウという」
さっきと口調が違うことに、ナツキはやっと気がついた。雰囲気もだいぶ違う。さっきは年上だと思われた年齢は、今はナツキと同じくらいの年齢に見える。顔もよく見ればまだ少年の面影が残っていて、それくらいだった。墨色の色あせた異国の服を、改めて珍しいと思う。
同じくらいの年で二人きりなので、本来の姿に戻ったということだろうか。
「あ、ソウさんていうんですね」
「ソウでいいよ。同期に敬語は必要ない」
「そ、そうだね。私はナツキ」
「知ってる」
「あ、そっか、さっき名乗ったんだっけ」
「いや、その前から知ってるよ」
「?」
突然、ソウの手がナツキの頬に伸びた。
「!」
硬直すると同時に、ソウの妖しい光を宿した瞳を見て、ナツキは悟った。
「ちょ、ちょっと待って!?」
ソウを振り切ると、ナツキは出入り口まで後退した。ようやく分かった。なぜ二人がこんなところに押し込められたのか。
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