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―六年後―
空気が静寂に凍てついている。肌を撫でる寒さは懐かしさを感じさせた。
眼下に広がる青緑色の壮観な森。朝もやをまとわせる姿はどこか不思議で、神秘的な情景を植えつけてくる。
その森へと吸い込まれそうになるほどの高い崖の上、男は目を閉じ、この場で感じられるあらゆる空気を理解しようとするように、森の息吹を全身で受け止めた。
しばらくして不意に小さな吐息が漏れる。笑っている。
「何も、変わっていない」
瞼を上げ、強い意志をたたえた紫色の瞳を再び向ける。
分かっていた。
エメラルド色の美しい枝葉が広がるその下。そこにはまだ、あの村があるはずだ。余所者を受け入れない許容のない村。森を一望できるここからでは見えない。森に比べればちっぽけで、価値などまるでないに等しい。
あってもなくても同じ。むしろこの神秘的な色の中では邪魔なものでしかない。いらないもの。森にとっても、そして、自分にとっても。
しかし男はまだその判断を下したわけではなかった。それを下すために帰ってきたのだ。
「変わらないのは森だけでいい。だが、お前たちも変わらないのなら、ここに存在する資格などない」
眼下に吐き捨て、男は踵を返した。
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