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「私もしかして……献上されちゃったりなんかしました?」
「まぁそういうこと」
先ほどの父親の後ろめたそうな表情とソウの薄情という言葉にようやく合点がいった。まさか実の娘を売るとは、ナツキもそこまでされるとは思っていなかった。
言うことをきかない娘などもう要らない、そういう思いもどこかにあったに違いない。勘当する、ともいつも言われていて今日のハルキなどは本気でするんじゃないかと思うくらい、睨みをきかせていたし。今日山へ行ったこともその怒りに拍車をかけてしまったのかもしれないと思うと、納得できる要素の方が大きい。納得したくはないが。
ナツキはへへへ~と笑うと逃げようとした。しかし襖にはまたしてもつっかえ棒がされていて開かなかった。
(閉じ込められたー!!)
なぜ易々と男を部屋へ入れてしまったのか。悟りようもなく突然のことだったので対処のしようがないのだが、それが悔やまれる。
「同期なんだ、もう少し心を許してくれてもいいと思うんだが」
「それとこれとは別でしょう!?」
「大丈夫。悪いようにはしないから」
自分から壁を背にしてしまったため逃げ場がなくなってしまった。ソウの右手が壁にそえられる。
顔が目の前にある。
「大丈夫」
甘い囁き。その吐息が肌にかかり、ナツキは身を総毛立たせる。紫色の瞳が妖しく光り、吸い込まれそうだ。こういうことに慣れている人ならきっと、そのまま受け入れられるのだろうけれど、ナツキには到底無理な話。その妖しさは恐怖以外の何物でもない。
男の手に後頭部を引き寄せられそうになって、ナツキは半泣きになりながらも無意識にここにはいない人を、でも会いたい人の名を呼んでいた。
「ショウキ!」
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