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思いっきり目を瞑って数秒。何もしてこないので恐る恐る目を開けると、ソウが無言で目を瞠(みは)っていた。突然叫ばれて驚いたのだろうか。
今がチャンスとばかりに、ナツキはソウを突き飛ばして距離を取った。
突き飛ばされて体勢の崩れたソウは、我に返ったように静かにその場にあぐらをかく。
「……悪かった」
息を吐き、謝罪。ナツキは訳が分からない。
「君に何かしようと思っていたわけじゃないんだ。ただちょっとからかってみたかっただけで」
それはそれでちょっと酷いような。
「本当、に?」
「嘘じゃない。俺が君と二人きりになったのは話を邪魔されたくなかったからだ。山の奥に住んでいる少女たちのことを訊きたかった」
それを聞いて、ナツキは狼狽していた顔を引き締めた。まだ少し警戒心は残っていたが、それよりもせっかくソウから姫たちのことが聞きたいと言ってくれたのだ。この機会を逃してはいけないと、素直にソウの前に腰を下ろす。
「いいですよ。何が訊きたいんですか?」
真剣さは二人から気軽さを取り除いた。男の雰囲気が、ナツキが初めに感じたものに戻る。
「どうして、君だけが少女をかばう真似をしたのか聞かせてほしい。いや、言い方が悪いな。彼女たちをかばう根拠を聞かせてくれ」
この男、ソウはハルキの言い分も、ナツキの言い分も、公平に聞いてくれるようだ。
ナツキは嬉しかった。そんな人、今までいなかったから。
「実は……」
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