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ソウは最初から最後まで真剣にナツキの話を聞いてくれた。
「つまり君は、実際に会っている立場だから確信して言えたんだな?」
「はい」
「強いな」
「え?」
「ハルキさんの言い分に疑問を持っている村人も中にはいるはずだ。でもハルキさんが怖くて逆らえない。それも多勢に無勢では従った方が楽だ。痛い目を見ずにすむ。でも君は……」
ソウは腕を組みながら難しい顔をしていたそれを解いて、不敵で穏やかな笑みを見せた。
「君はそんな中で真実を曲げていない。強いよ」
「いえ、強くなんかないです。私はただ、村長の娘っていう肩書きがあるから言えるんです。なかったらきっと……」
「君はその肩書きを失ったことになるだろう?俺に献上されるという形で」
「あ……」
「どうだ?もうその姫さんたちとは縁を切るかい?」
「そ、そんなの嫌です!」
「だろう?やっぱり強い」
ナツキは恥ずかしくて俯いた。自分の行いを認められたような言動も、初めてだったから。
「だが勘違いするなよ。俺はハルキさんの言うことも君が言うことにも、確証はないと思っている」
「つまり信じてはいないってことですか?」
「そう」
ナツキは何か証拠になることやものはないか考えた。しかしすぐには思いつかない。
ソウはその様子を見て、唇に薄く揶揄(やゆ)を上らせた。
「君は何かで俺をつることは頭にないのか?」
「え?」
紫の綺麗な瞳が射貫くようにナツキを見つめてくる。ソウの言いたいことはすぐに分かった。
「だ、だめっ!それは無理です!」
貞操に関わることを指摘されると条件反射で焦るナツキ。先ほどのことがかなり堪えているのは明白だ。
「冗談だ」
声が笑っている。そしてまたからかわれたことに気づくナツキ。
「ソウさん~」
まだ笑いながら、立ち上がるソウ。
「明日、案内を頼めるか?」
「え、どこへです?」
「山」
ナツキが意表をつかれた顔をする。
「それって」
「百聞は一見にしかず」
それを聞いて、ナツキの表情が彼女の性格さならがらに明るくなった。
「はいっ!」
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