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誰にも気づかれないよう、二人は朝一に村を発った。普段は山に入る前にマリかハンを呼ぶのだが、ソウの希望でそのまま山に入る。
魔物はやはり襲ってきたが、ソウの相手ではなかった。ソウは何の武器も持っていないのに、戦いになると掌から半透明な得物を出して、襲ってくる魔物を次々と倒していった。
「俺は氷を操る力がある」
マリやハンを物から創り出したリュウキと同じくらい不思議な人が世の中にはいるものなのだと、ナツキはなんだか嬉しくなった。
「ここです。マリ~。ハ~ン」
着いて早々呼ぶと、マリが顔を出した。ナツキが一人で来たのかと心配して駆け寄ろうとしたが、隣に見知らぬ男の姿を確認すると、怪訝な表情を浮べた。
「ナツキ、その人は?」
「旅人のソウさん。姫たちに会いに来たんだよ」
ソウは無表情の上に軽く穏やかさを乗せたような顔で、軽く会釈した。マリもつられて頭を下げる。その時マリはなぜか嬉しさを感じた。
「お、ナツキ。お前また一人で」
顔を出したのもつかの間、ハンも同様にマリと同じ気持ちが流れ込んできた。
「お前……」
ハンは一度ソウと会っている。そしてその時も妙な感覚に捕らわれたのを覚えている。
そんな感情を二人が持っているとも知らず、ソウはハンを見て話しかけた。
「君がそうだったのか。村を襲うような顔にはあまり見えないな」
ソウは苦笑して、すぐに無表情に戻った。
「この娘たちが君の言う姫たちなんだな?」
厳格さの感じられる言葉を受けて、ナツキもいつになく真剣になる。
「はい。鞠を持ってるのがマリ。で、お面を持ってる方がハンです」
「マリとハン……」
ソウは無造作に近寄ると、膝を折って目線を姫たちに合わせた。姫たちは心持ち動揺したよう。
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