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「あの、ソウさん?」
額に片手を当ててひとしきり笑った後、少し俯き、口元に不敵な笑みを浮かべる。
「俺はソウじゃないよ、ナツキ」
突然何を言い出すのか。ナツキは当惑して聞き返した。
しかしソウはすぐに答えず、今度は真っ直ぐにナツキを見ている。
「ナツ、キ」
ハンが、笑うのを失敗した顔で呼んだ。ソウを見て何かを悟った様子。
「どうしたの? 二人とも」
マリは真実のあまりに突然の到来に、口元を覆っていた。その、紫色に光る黒色の瞳が追っているのはソウ。
ソウは姫たちの反応に微笑し、ナツキを見た。
「どうやら二人は分かってくれたみたいだ。ナツキ、君には分からないか?」
と言われても、一体なんのことを言っているのか、ナツキには皆目見当もつかない。
そんなナツキの答えを待たず近づいたソウは、当惑する彼女に構わずゆっくり腕を回し、細い背中を抱き込んだ。
あんなに接触を拒んでいたのに、ナツキはなぜだか振り払うことができない。
寒い二月の薄く張った氷の空気を、柔らかく覆う優しさ。それはナツキに六年前の温もりを思い出させていたから。
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