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* * * * * *
ナツキ。
(……呼んでる)
ナツキ。
(誰だろう……)
ナツキ。
(……もしかして)
ナツキ!!
「ショウキ!!」
バッ
「――!!」
朝の柔らかな空間に、叫び声が突き刺さった。部屋を囲う板張りも、その声が届く家全体に漂う空気も、突き刺さる叫び声に、停止を余儀なくされる。
それはほんの数秒でなくなったが。
「寝てる娘の部屋にノックもなしに入ってくるなんてサイテー!」
さっき抜群の声量で周りを瞬間止めさせた張本人は、その続きだとでも言うように目の前の人物に食ってかかった。短く切られた髪が活発な雰囲気をかもし出す、十七歳くらいの少女だ。
「な、何度呼んでも起きてこないからだろうが!」
攻撃された相手は、そんな言いがかりをつけられるのが不本意という逆切れで反撃した。少し厳格そうな中年男性。
「そんなのイタミさんに頼めばすむことじゃない! いつもお手伝いさんにやらせてるお父さんが何で入ってくるの!? 信じらんない」
「下着一枚で寝てるわけじゃないんだからどうでもいいだろ、そんなこと!」
親子喧嘩だろうか。その原因はどうやら父親の慎みのなさにあるらしい。
少女はシャツと膝丈のズボンという軽装だが、恥らうような露出は見えない。
少女の父親――ハルキはそんなことより、とばかりに鼻息荒く、娘を睨みつけた。
「それよりナツキ、お前昨日も行ったそうだな?」
予想だにしなかったことを指摘され、少女はあからさまにしまった、という表情を出してしまった。それに気づいて口を塞いでももう遅い。
今度は少女――ナツキが攻撃される番。
「やはり行ったんだな? あれほど言ったのに、どうして親の言うことが聞けないんだ! あの山には魔物が出るし、得体の知れん奴らもいる。危険極まりないと何度言えば」
しかし一方的に言われる筋合いはナツキにもなかった。
「だから危険はないんだってば! 確かに魔物は危険だけど姫たちが助けてくれるし、それに」
「またその“姫たち”か」
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