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父親の露骨に嫌う態度を見て、ナツキは一度ムッと唇を引き結び、再び声高に訴えた。
「姫たちはいい娘たちだって言ってるじゃない! 魔物がこっちに来ないのだって姫たちのおかげなんだよ? 何回言えば分かるのよ!」
「そんな証拠がどこにある。あったとしても、あんな得体の知れん奴らを信用するのは危険すぎる。そんなところへお前がしょっちゅう行ってるなんてことが知れたら、俺の立場がないだろう! 村長の娘として、もっと村人の手本になるような行動をしろ!」
親子の間に火花が散っているのが見える。
「今後一切、その山へ行くのは許さんからな。もし行ったら」
「勘当? いつも言ってるくせに結局しない脅しなんて怖くないんだか……」
「今度は本気だぞ!」
ナツキは父の今までにない怒りの形相を見て、またしまった、と思った。どうやら言ってはならないことを言ってしまったらしい。
「それから、ショウキのことはもう諦めろ。六年だぞ。自分から出ていったんだ、帰ってくるわけはない。もう生きてもいないさ」
「それはお父さんが……」
バタン。一方的に言い合いは終局に向かわされてしまった。部屋にはナツキだけが残される。
「それは、お父さんが悪いんじゃない!どうして一方的に言い伏せちゃうのよ。お父さんの馬鹿!」
出ていく直前、父親はナツキを睨みつけていた。娘に向けるものとは思えない眼差しに、怯んだら負けだと精一杯反抗したのだが、後味の悪い空気を倍増させるだけだった。
「……そんなこと言わないでよ」
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