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「きゃあぁぁ!」
「ナツキ!」
刹那に魔物の悲痛な鳴き声。ナツキと魔物の間に何かが介入した。
「大丈夫かっ」
「姫!」
介入したのは幼さの残る麗しい顔を持つ女の子だった。魔物との戦いの場にはふさわしくない、場違いに等しい淑やかさも持っている。着ている清楚な着物も淑やかさを増す要因で、こちらもまた戦いの場にはふさわしくない。
そしてその背中を隠す長い薄青緑色の美しい髪は、森に似た神秘的な雰囲気を持っていて、風に誘われサラサラと銀糸のように流れている。
誰もが見惚れるその様はまさにお姫様だった。
しかしお姫様はナツキの発した言葉に微笑むどころか、ぶすっとして思いっきり嫌そうな顔をした。
「そう呼ぶのやめろって言ってんだろ?」
「だってやっぱりパッと見、お姫様なんだもん。しょうがないでしょ」
「慣れろよ!ってか慣らせろ!」
口調と表情と動作からして、お姫様度がかなり台無しであるのは言うまでもない。
魔物は怯まされても諦めなかったらしく、言い合っている二人めがけてまた飛びかかってきた。
「ちっ」
姫は右手に持った仮面――般若の面を顔に重ねた。
これから何が起こるか知っているナツキは、とりあえず目を瞑る。
空気が凍てついたのは肌で感じられた。
始まった。これが姫の魔物撃退法。
魔物は一瞬で硬直した。姫の装備した面から目が離れず、それと同時に大きな恐怖が襲ってくる。魔物の体よりも小さいこの少女が大きく見え、いや、背後から鬼が恐怖を運んでくるような威圧感が風とともに押し寄せて。
魔物は耐えられなくなって逃げ出した。負け犬の弱々しい鳴き声を残して。
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