大事な親友兼相棒!

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※ドS上司の意外な一面の外伝です。裏工作の事情がここに! ***  俺が初めてまさやんを認識したのは、男子ばかりの中学に入ってから。  クラスではバカなことを言って男子と盛り上がっていた俺とは対照的に、いつも窓の外ばかりを見て、ひとりで本を読んでいる少年だった。  後期の学級委員の選出で、推薦にて委員長になったまさやん。一方じゃんけんで全員に負けた俺が、副委員長に任命されたのである。 (何で負けた人間を委員に任命するんだろう。勝ちきったヤツの方が運とか諸々あって、クラスのためにいいと思うのに)  内心ブツクサ文句を言いながら渋々委員長である、まさやんの席に行った。 「あの鎌田、俺こういう長のつく仕事をしたことがなくて、思いっきり足引っ張るかもしれないけど宜しくな!」  これでもかと元気よくフレンドリーに挨拶したのにも関わらず、まさやんは俺をチラッと見て素っ気無く、 「ああ、よろしく……」  という一言だけを告げた。だからこそ俺は不安に駆られてしまった。  うー、コイツとやっていけるのかなって。  だけど一緒に仕事をしていく内に素っ気無さは照れ隠しの表れだと気づいたり、結構ドジ゙なところを見てすっごく驚いた。  意外な一面を見て、コイツと友達になりたいと思ったのである。  生徒会を含めた会議を終える廊下で、思い切って訊ねてみた。 「鎌田は友達と一緒にいるところは、あまり見たことがないな。友達、いないのか?」 「群れるのが苦手なんだ。ひとりでいるのが好きだから、それだけ……」 「俺は鎌田と友達になりたいって、実は思ってるんだけどさ」 「まるで愛の告白だな」  顔をちょっとだけ引きつらせて、素っ気無く言った←さては照れているのだな  その素っ気無さに、ありったけの勇気をもらって言葉を告げる。 「あのさ、これから俺のこと、山田君じゃなくて下の名前で呼んでよ。俺も鎌田のことをそう呼ぶからさ」 「……下の名前?」  ↑結構面倒くさそうな態度だった 「賢一っていうんだけどみんなからは、けん坊って呼ばれてるんだ。ほら賢一の一が横棒だからさ!」  文字にすると坊になっているのは、当時の俺が坊主だからなのである。 「鎌田は:正仁(まさひと)っていうんだよな。うぅんと、まさやんでいいか」 「まさやん――」  呟くように言う姿を見て(勝手に)喜んでいると判断した俺は、その日からずっとまさやんと呼んでいた。  まさやんもいつの間にか俺をけん坊と気軽に呼んでくれるようになり、委員会以外でもつるむことが多くなっていった。  学年が上がり中学2年、まさやんとはクラスが別々になる。  俺はとあるバンドに夢中になり、先輩からギターを習っていた。まさやんは家庭の事情で家にいたくないらしく、学校と図書館と家の往復をしていた。  家の事情……まさやんの父さん母さんが不仲で離婚協議をしているのだが、どっちが一人息子を引き取るかと毎日ケンカをしていたらしい。  学校から先輩の家に向かう俺と、図書館に向かうまさやん。  ギターの練習が終わったら俺が図書館に寄って勉強を教えてもらったり、一緒に家へ帰ったり。そんな平凡な毎日の中で事件は起きたのである。  いつものようにお互いのクラスの話や趣味の話をしながら、一緒に帰宅していた。  目の前の分かれ道で、まさやんが渋い表情で話しかけてきた。 「じゃあ、いつも通り待ってるから。勉強は大丈夫なのか?」  わざわざ俺の心配をしてくれる、来週末テストなのだ。 「早く教えてもらっても頭に入らないから、来週からでいいよ。じゃぁ1時間半後に、そっちに行くわ」  元気よく手を振って、まさやんと別れた。  1時間半後と言ったがギターを教えてくれる先輩の事情で、少し早めに図書館に向かうことになる。  やっぱり今から少しずつ勉強しようかなぁと、内心後悔しながら図書館の横を通り過ぎたら、窓からまさやんの姿が見えた。本棚に向かって、何かを探している様子だった。  そんなまさやんの後ろに、図書館の女性司書が何かを話しかける姿が目に留まる。  2人がよく話をしているのをしょっちゅう見ていたので、探し物をしているまさやんに声をかけただけだと思って通り過ぎようとしたそのとき――女性司書がまさやんの頬をそっと両手に包んで、キスをしたのである。 「まさやんっ……」  俺は手にしていた物の全てを、その場にドサドサッと落としてしまった。  当時のまさやんは俺や他のヤツらと違ってお肌にニキビが一切なく、知的な感じの美少年だったので、かなり羨ましかった記憶がある。いっそどこかの芸能事務所に入って、歌って踊ったら稼げるだろうと本人に勧めたのだが即却下された。  そんな美貌を持つまさやんに、きっとあの女性司書がイカレたんだ!  そして困った……。助けたいという気持ちがあるものの、これから行われるであろう甘い展開を見たいという衝動に、激しく駆られてしまった。  だってお年頃ですから←思いっきり言い訳な俺  ドキドキしながら窓に張り付いて、コッソリと続きを覗いてみた。  女性司書の左手がまさやんの頬から肩へ、肩から下半身へとゆっくり移動していく。  俺はゴクリと喉を鳴らした。  そのときにまさやんの右手が彼女の移動する手を掴み、左手で彼女の喉首を掴んで床に叩きつけた。 「気持ち悪いことをしないで下さい、おばさんっ!」  外にまで聞こえる大声で言って荷物を急いでまとめて、こっちにやってきた。一方の女性司書は血を出している唇を拭っていた。  キレイなお姉さんだったのになぁとちょっとだけ残念に思っていたら、扉から出てくるまさやんと窓に張り付いている俺の目が、ばっちり合ってしまった。  まさやんは持っていた荷物を、ドサドサッとその場に落とした。 「けん坊――」 「……まさやん」  お互い、超絶な感じで気まずくて。  どちらともなく足元に落とした荷物を手にして、近くの公園へ移動したのである。  ベンチに腰掛ける中学生2人。無言のまま時間だけが流れていった。 「……まさやん、ごめんな」    まず俺が謝った、当然だ。友達があんな目にあっているのに黙視したのだから。 「俺も……驚いた。けん坊が、アレを見ていたなんて」 「通りかかったらさ、たまたま中が見えて、まさやんが襲われていて」 「立場が逆だったら、俺もきっと見ていると思う。男だから……」  無理やりな笑顔で頭を掻くまさやん。その笑顔が、やがて泣き顔に変わっていった。 「でもびっくりしたよ。突然ブチュッとされて、口の中に舌が入ってきたときは……」 「まさやん……」 「俺の大事なファーストキスが、あんなおばさんに奪われるなんて、さ」  俺は黙って、まさやんをぎゅっと抱きしめてあげる。 「怖かった……」  そう言って俺に抱きつくまさやんを、これから守っていこうと決心した瞬間だった。
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