196人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
「――ヤッタわ~!!!」
甲高い大声で叫ぶ高橋先輩の声と、
スコーーーンッと、缶が蹴られる音が周囲に響き渡った。
「~~っ!?」
弾き飛ばされる缶を見上げる私と、三津さん。
缶を蹴って貰えれば、見つけられて捕まえられた私は、自動的に釈放となる。
だから私達の勝ちが決まったわけで。
私を…わざわざ助けになんて来る必要は、
全くない。
それなのに、
なのに…
三津さんが蹴られた缶に気を取られた一瞬の隙に、
鬼の陣地中にいる私の元へ一目散に駆け寄ってくる、
――――春樹。
そして満面の笑顔で、
私を陣地の外へ引っぱり出してくれた。
春樹の突き抜けるように纏う風が、私の前髪を一瞬吹き上げる。
「お待たせっ、たかちゃん!」
「……っ」
力強い春樹の手に引かれながら、私は春樹の笑う横顔に目を凝らす。
どうやら春樹は、全く関係ない反対方向にわざと視線を送って、
自分の方へ鬼の注意を逸らす作戦だったらしい。
鬼の注意が春樹側に少し向いている隙に、隠れて反対方向から近寄ってきてくれた高橋先輩。
なんて、コンビネーション!
勢いつけて缶が蹴り上がる、あの爽快感。
陣地の外へ出された時の、突き抜けるような解放感。
頬を撫でる風が私達を優しく包んでいた。
「春樹君~、ナイス!
鬼さん、ザマーミロねっ!!」
高橋先輩の走り際の声に、悔しそうな顔を向ける三津さん。
この時ばかりは、お腹を抱えて笑いながらも、
悔しがる三津さんが少し可愛いかも?、なんて思ってしまった。
こうして缶蹴りは、実際に蹴った高橋先輩の勝利に終わった。
まさか高橋先輩が勝つとは思わなかったけれど。
ーーでも。
それ以上の想定外な事が、すぐ直後。
私の身に降りかかる。
「ーーーーえ、先輩?今、なんて?」
身体ごと崩れそうな程、あり得ない事を言い出した高橋先輩へマジマジと視線を向ける。
「だから、春樹君と高嶺がキスしてって言ったのよ?」
「「ーーーえ?」」
春樹と声を合わせて瞬きを繰り返しながら、固まる身体。
ハハッちょっ、冗談は止してくださいね?先輩?笑)
もうそんな、おちゃらけ必要ありませんよ?
ねえ、先輩?
だからそんな真顔で、……私達を見つめないで。。
最初のコメントを投稿しよう!