境界線の歪み

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「おい、高橋……、お前っ…… 」 いつもの先輩らし兼ねる発言に、 三津さんも戸惑いの表情を浮かべてくれたけれど、 「あら?…三津さんだって、疑っていたじゃないですか。 春樹君と高嶺は、本当は付き合っていないんじゃないかって。 だから、私達の目の前でそれを証明して貰おうかと思っただけじゃない。 もし付き合っていないのなら、 三津さんにだってチャンスが来るかもしれないし、 それに、本当に付き合っているのなら、 人前でキス位、簡単にできるでしょう? …ねえ、高嶺? 」 少しも怯まない視線を向ける先輩に、簡単に言葉を無くしてしまう。 「……っ。」 せ、先輩。 先程まで、あんなに笑い合って缶蹴りをした後とは思えない程の緊迫感が、私達を包み込む。 まさか……、 最後の最後で、先輩にこんな事言われるだなんて思ってもみなかった。。 胸がズキズキと痛んで、顔を背ける事しか出来ない。 先輩と同じ部署で、同じチームになれた事が嬉しくて、 心から憧れて尊敬している高橋先輩。 仕事が早くて、面倒見が良くて優しくて、 私に出来る事ならば、何でも力になりたいと、ずっとずっと思っていた。 だからあの時、 ”先輩、実は私、営業ヘルプの話を頂いてるんです。 もし、高橋先輩の今携わっている新規事業の立ち上げの話がまとまったら、 先輩の傍で力にならせて欲しいです。” そう、言葉にした。 私なんかが、先輩の力になれる事なんて限られているのは分かっていても、伝えたかった。 少しでも私の憧れに近づきたかった。 残業続きなのは御互い様でも、任されている仕事の重みは全然違う。 だから少しでも、私に出来る事があればと力になりたいと思った。 あの時、社交辞令で言ったんじゃない。 嘘じゃなかった。 けれど一方で、あんな言葉を口にして後悔した。 気合いだけで、まだ知識の乏しい私に何を任せられるだろうか、なんて思われたらどうしようって不安が頭を過ぎっていたから。 緊張していたし、先輩へ向けた笑顔が強張っていたかもしれない。 でも。 そんな私の不安を取り除くように、 「ええ、ありがとう」 そう、微笑み返されたあの笑顔は、本当に嬉しくて。 また一生懸命頑張ろうって、先輩の役に少しでも立てるよう努力しなきゃって、思った。 先輩の私を試すような その視線を向けられるまで、 全然、 気付けなかった。
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