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「須藤さんってさ……」女子の1人がなにかを言いかける。
が、それを制すかたちで奥沢さんが言った。「歓迎会だよ、ユカちゃんの」
『ちゃん』という敬称がいちいち怪しい響きを放つ。本当に字面(じづら)どおりの『歓迎』なのだろうか。
「ね、いいでしょ?」別の女子が懇願するように言う。
まるで絡みつくような彼女らの視線を浴びながら、もはや観念するしかないと悟った。「1時間くらいなら……」
が、奥沢さんは意味深に言う。「ま、それはユカしだいってことで」
***
およそ30分後、わたしは渋谷のファストフード店にいた。入店後、わたしだけはカウンターに立ち寄らず、5人分の席を確保する役をまかされた。2階の客席は混雑していてしばらく階段付近に立ち尽くしてしまったが、奥のほうで席を立つグループの姿を見つけると、2対2で椅子の配置されているその席を素早く陣取った。もう1脚の椅子はよその席から盗むように調達した。
こうしてひと仕事終えたわたしは、2つ並んだ椅子のうち階段に背を向けた壁際の位置に1人座っていた。あとからやってくる4人にとっての見つけやすさという点には気がまわらない。
ここに来るまでに『歓迎会』のおおまかな趣旨は聞かされていた。
奥沢さんによると、やはりというか、わたしはクラスで相当謎めいたやつだと思われているらしい。なにしろ、わたしはこれまで自分の素性というか来歴というものをほとんど話してこなかった。あえて伏せていた部分もあるし、また話す機会がなかったこともある。入学式の翌日の自己紹介のときでさえ、緊張していたせいもあるが口にしたのはたったふた言だ。
須藤由佳です。よろしくお願いします。
当然、クラスメイトの反応は薄かった。早くも地味キャラ決定かと思われた。もちろんそれはそれで結構なこと。中途半端ないじられポジションに置かれるよりはよほどいい。が、普段のわたしの行動はといえば、どう考えても変なかたちで目立ちすぎていた。
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