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いずれにしても、無謀な進路選択がもたらした当然の影響の1つとして、1時間目からわたしはうとうとして過ごした。なにしろきょうは金曜日、連日の寝不足が祟っていた。
一方、隣の奥沢さんは、授業中に限り細いピンク色のフレームのメガネをかけ、その視線は黒板と机上を頻繁に行き来している。その真剣な横顔は、やはり有名進学校の生徒のものだった。
4時間目、ふいに側頭で結った髪の束をクイクイとおもちゃを扱うような動作で引っ張られる。次、あんた。奥沢さんに小声でそう言われると、わたしは前の席の人が教科書の英文を朗読していることに気づいた。それから、一応開かれている教科書に目を落とし、英文の現在地を血まなこで探る。ココ! 彼女は声には出さず、自分の教科書を机の陰に隠れる位置でわたしに向け、現在の朗読箇所を指の腹で叩いて示す。
結局、わたしもこんな感じで彼女に助けられているのが現状だ。
そんなわたしも、現金なもので昼休みになると生気を取り戻す。弁当箱の包みを片手にいそいそと教室をあとにして、向かった先は2つ隣の1組だ。
「河田くんっ」
教室の入口から呼びかけると、男子数名と談笑していた河田くんがむき出しの弁当箱を手に駆け寄ってきた。
わたしたちは名字で呼び合っているものの、端からは仲のいいカップルにしか見えないだろう。もちろんそのことに気後れする必要なんてない。だって幼稚園からの仲なのだから。
「だいぶ馴じんでるじゃん」ちらっと見た教室内での彼の様子を受けて、わたしは言った。
「須藤ちゃんはどうなんだよ。すげー人見知りじゃん」
「わたしはまあ、なんとか」
「あっちから通ってんじゃ友達と遊んでる時間もないよな」
高校進学を機に父親の単身赴任先の東京に一家で引っ越した彼は、同情するように言う。
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