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わたしたちは校庭の木陰に腰を下ろし、食事にする。好天の日はたいていこの場所で。河田くんのお弁当には、いつも本人自作の玉子焼きが入っている。わたしはそれをひと切れつまみ食いし、おいしいと言う。砂糖たっぷりでとろみのついたそれは、まるでわたしのためにつくられたような味だった。また河田くんも、わたしのミートボールを口に含んではうまいと言う。残念ながらこちらはレトルトだが。
わたしたちは食べながらとりとめのない話に花を咲かせる。彼のおどけた話ぶりにわたしはよく笑い、そしてわたしの話にときおりご飯粒を飛ばしながら彼も笑う。ここ1年ほどでずいぶん低くかすれた声になったけれど、屈託なく笑う様子は幼い頃とまったく変わりがない。だからきっとわたしはその声を聞きたくて、たとえばむかし弟のお菓子を勝手に食べて顔面にパンチを喰らい鼻が潰れたこととか、逆に弟にわたしのデザートを食べられた際、やはりその顔面に頭突きをかまし乳歯を2本まとめて抜いてやったこととか、ゆるいMC風に語ってみたりするのだ。
そして食後、彼は芝生に寝そべり、わたしは樹の幹に寄りかかり姿勢を楽にする。とはいってもお互い眠るわけではなく、ゆるい調子のおしゃべりは続く。それでもきょうの話題はいつになくまじめで切実なことだった。5月はじめに実施される実力テストについてである。いくら難問だらけの入試をパスしたとはいえ、公立中学出身のわたしたちにとってこの学校の学習ペースについてゆくのは簡単なことではない。
どうしようどうしよう……。2人で焦りうなったあげく、とうとう予鈴が鳴る。実質45分の昼休みは、こんなふうに瞬く間に過ぎてゆく。かけがえのないふたりきりの時間……。
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