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§0 獅子の子
鬱蒼とした森の奥に灰色の岩肌に開く洞窟があった。
両脇にある小さな蝋燭の明かりを頼りに、薄暗く足場の悪い道を進むと茶色の岩盤と砂色の土が混じった広間に出る。奥には台座の様な岩盤があり、そこに黒い獣の影があった。獣の後ろには、巨大な両開きの扉が堅く閉ざされている。
獣は台座にどっしりと寝そべり、気だるそうに頭をあげた。広間には、方々に人の姿をした影が7つ散らばっている。正確には人ではなく、どの影も獣の耳や角、尻尾がついていた。
「時は来た、我が子らよ」
台座から重々しい声が放たれる。
「獅子は自らの子を、崖下へ突き落とす。お前達はこれより旅立ち、力をつけて戻って来い。後に集いし、この地で戦い、勝利した最後の一人・・・」
そこで獣は一呼吸置く。7つの影を見渡して、次の言葉を吼えた。
「私に打ち勝った、汝こそが次の王だ!!」
周囲から歓声が上がる。血を分けた兄弟たちが、王座を賭けて戦うことに。
(皆、おかしい・・・)
四男ダイヤモンドは、赤い髪と青い瞳が、彼らの母親に良く似ていた。そして、この異様な空気に怯えている。ふと、二人の姉が視界に入る。一人は長女アメジスト。薄紫の長髪を、後ろで束ねている。彼女もまた、彼と同じく不安な目をしていた。彼女と目が合うととても悲しそうな表情を見せる。ダイヤモンドとアメジストは自分達がこの空間でたった二人きり、取り残された気分になった。
一人は次女エメラルド。金髪のウェーブの掛かった長髪で名と同じ緑色の瞳をしている。彼女は、幼少から玉座に固執した女性だった。この時を心待ちにしていたのだろう。すでに女王になった気分でいるのか、楽しそうに笑っている。
「ククク・・・」
幼い声が場の空気を凍りつかせた。全ての目が声の主に集中する。末の子サファイアが、肩を震わせて笑っている。
「そんな面倒臭ェことしなくてもよぉ・・・今、ここで!全員と勝負して決めれば良いじゃねぇか!!」
サファイアの紫色の髪と青い瞳が風になって消える。次の瞬間、彼は黒い獣の前に立っていた。獣、ライニアは不動の姿勢でそれに応じる。
「これで俺が、次の王だ!!」
サファイアが鋭い爪を振りかぶった刹那、ライニアの後ろにある扉が僅かに開いた。
「******…」
謎の言語が聞こえる。
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