§1 幻夢軍

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§1 幻夢軍

もうどれだけ歩いただろう。気がついたら、荒野に居て灼熱の太陽が照り付けている。喉はカラカラで、足もフラフラだ。彼には、此処に来る前の記憶が無い。ただ、何処かでぶつけたのか頭が激しく痛む。 それでも、歩いた。いつか、この景色が変わる事を信じて。幼い少年は、ボロボロの身体を引きずって歩いていた。ついに彼は倒れた。紫色の髪が砂に汚れていく。口の中に土が入ってしまったが、頭がぼんやりしてそれどころではない。 ふと、少年の上に影が落ちる。布のコートを着た男だ。夕日色の髪を後ろで縛っている。メガネをかけており、つばの広いウェスタンハットを被っていた。その脇には巨大な黒い獣が居た。額に折れた角があり顔に傷がある獅子だ。 「お前、ひとりか?」 男が上から言葉を呟いた。少年は答える元気も無い。男は身をかがめると、自分のコートで少年をくるむと抱えあげた。 「名前は?」 そう言われて、少年は少しだけ頭を回した。そうだ、これだけは解る。頭に残っている微かな単語を集める。たしか僕は、誰かにこう呼ばれていた。 「…ソフィア」 「そうか、ソフィア。俺はルオーだ。此処は危険だから、とりあえずうちに来い」 ルオーはソフィアを抱えて黒い獅子に乗る。 「行くぞ、オゼロ」 その一声に反応して、オゼロという黒い獣は風のように走る。一日経つと、荒野は消え、広大な森が見えてくる。森の中をしばらく走ると、開けた場所に古城が立ってるのが見えた。ソフィアはそれを見て、はじめて見る建物に驚きの声を上げる。 「うわぁ・・・凄い」 ルオーは、ソフィアが気力を取り戻したのが解ると地に下ろした。自分の足で歩けるまでどうやら回復したようだ。ルオーの後をパタパタと着いて来た。中に入ると数人の人が声を掛けてくる。勿論ソフィアではなく、ルオーにだ。 「お帰り、首領!」 「ルオー様、どうでした、今回の情報は」 「やぁ、ルオー。誰だい?その子は?」 何人かが、知らない顔の少年に興味を向ける。ソフィアはどうしていいか解らず、ルオーにしがみついた。 (だ、誰だろうこの人達。この人の知り合いかな?) ソフィアは不安な顔でルオーを見上げる。ルオーはそれに気付くと優しく笑った。そして自分達を取り巻く仲間に少し離れる様に目で合図すると彼等にソフィアを紹介する。
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