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ぱしっと両手を合わせて拝む形にして言った。
「内密にしていただくことはできないでしょうか」
無理を承知で問うてみる。
「どうして。後輩のミスでしょ。彼女が責任を取ればいいんじゃないの。君が連帯責任問われるわけでもないでしょうに」
「あの資料はたしかに社内資料ですけど、万が一外部に漏れたところで経営や取引に直接影響があるようなものじゃありません。彼女には今後こういうことのないようにしっかり言っておきますから」
そこまで言うと、多岐さんはまたぷっと吹き出した。
「わかったわかった。あの資料ね、ぼくも読んだけど、漏洩したところで会社の不利益になるようなものじゃない。彼女には課長から注意がいく程度ですむでしょう。あ、でも自宅のパソコンのウィルス駆除するように言っておいて。あー、でも彼女にできるかなあ」
「大丈夫です、彼氏が元社内システム部でしたから」
「そうだそうだ、農水の彼ね。ヤツならなんとかするだろ」
缶コーヒーを飲みながら、なにかものすごく考えている顔をしている。
決裁文書の改ざんなんて、やっぱり無理なお願いをしてしまったのだろうか。
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