T-1

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「あの、多岐さん?」 「うん。よし。昼飯一回で手を打とう」 「はあ?」 「口止め料。俺への」 「さっきたいしたことないって言ったじゃないですか」 「大丈夫だとは思うよ。でも一応決裁文書の一部を改変するんだから、それなりの見返りはないとね。先送りしてもいいけど、そのときはもっと面倒なお願いするかもしれないよ」 せっかくいい人だと思っていたのに見返りなんて。 でもお昼くらいで済むのなら安いものか。 「わかりました。お昼一回ですね。でもあんまり高いところにしないでくださいね」 「昼飯って言っただけで、値段はまだ言ってないよ」 なんだ、こいつ。 いじわるか。 わたしが口を尖らせて批難の表情を浮かべていると、多岐さんはまたぷっと吹き出した。 「大丈夫。無理は言わないよ。じゃ、明日の昼、空けておいてね」 そう言って、多岐さんは缶コーヒーを持って立ち去った。 多岐章人。29歳。 社内システム部一のキレモノでいじわる。 でもさっきちらっと見えたスマートフォンの画像はアニメ「魔法少女なな香」の限定ダウンロードバージョン。 どうやら数あるオタク伝説の中でもアニメ系オタクについては本当らしい。
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