4章 聖剣

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「しっかしさあ」  メロンには目もくれず、リンゴを食い出した葵がふとこぼす。ちなみに所望通りウサギ型に切ってやった。『まったく萌えない』と落ち込まれたが、俺だって野郎のためにリンゴ剥きたくねえよ。 「女っ気ねえな。ハーレム連中ってお前の行くとこどこにでも来るもんじゃないのか?」 「そりゃ作ってないから来ねえよ」  せっかく剥いたのにもったいないとメロンを食う。うわ、渋っ。甘みはなくはないが、後味に残る青臭さが未熟であることを伝えてくる。やはり食べ頃はまだだったようだ。 「悠斗のことだから、こっちでも作ってるかと思った」 「いらんそんなもの。フラグは立ててから丁重に手折ってる」  なぜわざわざ立てるのか。答えは簡単、立つ前にへし折ると何度でも起き上がるからだ。芽が出てから二度と立ち上がれないよう叩きのめすのがフラグ折りのコツ。 「うっわ、余裕ぶっこいてやがる」  からかうような口調。いつもどおりの反応だ。しかし。 「あのな、葵」  環境が変わったせいか、知らずしらずの内にストレスを溜め込んでいたらしい。いつもなら笑って終わるところ、けれどブチリと何かが切れた。 「フラグ成立で寄ってくるようになる女なんて、大抵はハーレム要因の女、略してハーレム女だ。  ハーレム女にとって、好きになる男なんて、貢いでくれるか、並んで歩いて他の女に自慢できるか、使える能力を持っているか、のどれかだぞ」 「お、おい、悠斗?」 「奴らは俺なんか見ちゃいねえ。勝手な妄想イメージ膨らませて擦り寄ってくる嵐だ。自分が良ければいいだけの自己中だ。可愛い子ぶってるが、そんなの最初だけ。騙されると痛い目に合う」  ああ、思い出してきた。中学2年の冬、当時友達だった高瀬と絶交した日を。彼の彼女の椎名を寝とったと誤解され、そのまま縁が切れた日を。傷心気味な俺を椎名が慰めてくれたんだっけ。それが高じて彼女と付き合って。思えばあれは奴の罠だったんだよな。
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