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◇◇ 1 ◇◇
体を包み込まんばかりに膨れた爆炎に【イニティ】を叩きこんだ。破裂音がして、光のカケラが辺りに飛び散る。
ほっと息をついたのも束の間、銀の筋が見えて、慌てて両の手で握った剣で受け止めようとする。しかしそれは剣に触れる寸前で止まった。
代わりに、腹に衝撃。
抉るようなそれに、音にならない悲鳴が漏れる。反射的に強化してなかったら、食ったものが戻ってくるどころか、絶対に肋骨が数本イってたぞ。
追撃の気配を感じて、無理矢理氷の魔法を使う。相手と俺を遮るように作られた壁。それだけにとどまらず、相手を凍てつかせようと地面を伝っていく。
氷のカーペットが辿り着く前に、相手は空中に逃げた。それを見て、俺は口の端を吊り上げる。空中では避けられない、は定番だ。
剣を右手で持ち、左手は人差し指と親指だけを立てる。銃を模り、相手に照準を合わせた。ばん、と口遊む。児戯にも等しい行動だ。けれど威力は絶大。
水でできた槍が、相手を貫こうと突進する。相手の白いローブの端がはためいた。
何をどうやったのか。何もない空中を蹴って、相手は槍の軌道から逸れる。標的を捉えられなかった槍は文字通り霧散した。俺の真正面に、〈白色〉がローブを翻して降り立つ。
フード越しに見える、金の目。獲物を狙う猛禽の眼差しに、知らず体が強張る。躊躇いもなく突き出された【シェルト=メロ】が、俺の胸を突き抜けた。
ぱさ、とローブの裾が重力に従って落ちる。そっと剣が引き抜かれるのを見て、よろりと膝を付いた。
「しっ、死んだかと思った」
「まさか、殺さないよ」
さっきの野生の獣のような眼はどこへやら、いつも通り穏やかな表情でルインは言う。いや嘘だ、あれは絶対に仕留めようとしていた。
「大分保つようにはなってきたみたいだけど。聖剣を使いこなせるようになれば、もっと長引かせられると思うよ」
両手の【シェルト】をくるりと回して魔力に還しながら、ルインは講評を述べる。あくまで戦闘を『長引かせられる』だけで、『勝てる』と言わないあたり、ルインは自分と俺のレベル差をよく理解している。そもそも経験の差が大き過ぎるんだ、たった一月で追いつけるとは思っていない。
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