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刺された胸を撫でる。実際に刺さったわけではないから血は滲まないし傷もできない。ただ貫かれた衝撃は残るから、青痣くらいはできるのだ。現に今、押されると痛い。
「すっげえな、2人とも。ルインは最強主人公だから当然だろうけど、悠斗もあんな動けるんだな」
観客席から降りてきた葵が、運動神経は同じくらいだったのに、と恨みがましい声で言う。それでも手を差し伸べてくれたので、ありがたく掴んで立ち上がった。
「まあ一月近く修行しましたし」
砂埃を払う動作とともに、清浄魔法をかけて服を綺麗にする。一月近くやっていれば、挙動に魔法を混ぜるのにも慣れてきた。
「それだけで最強の動きに食いついていけるか?」
「そこはテンプレでお馴染みの召喚特典。身体能力上がってるぞ」
「特典ねえ」
考え込んだ葵に、どうした、と視線で問いかける。実際にあるもんだなと思って、と答えが返ってきた。
「俺にもついてんのかな」
「召喚に使った魔法陣は同じだし、ついてんじゃねえの。翻訳はついてんだしあり得る」
「陣じゃなくて聖剣の鞘のお陰かもよ。それあるからお前も魔法が使えんだろ?」
確かに、そっちの可能性もあるか。戦闘する際には必ず持っていたから、どっちが作用しているのかわからない。
「『とくてん』とか『てんぷれ』とか、一体何の話?」
「気にすんな、こっちの話」
首を傾げながらもルインは素直に頷く。テンプレも特典も、異世界トリップもののスラングみたいなものだからなあ。
「で、満足?」
そもそもルインと戦ったのは、葵が『魔法対戦をナマで見たい』とか言い出しやがったせいだ。ある意味日課になっていた一日の終わりの手合わせを、真昼間からやらされる羽目になった。
「おう、満足。特典あっても最強には勝てないんだな」
「チート補正じゃねえみたいだから。折角だから補正掛けてもらいたかった。レベル上げダルい」
お前昔っからレベル上げ嫌いだもんな、と葵が笑う。そうなんだよ、だからRPGは低レベルクリアしてんだよ。
「付け焼き刃な奴に最強が負けちゃ名折れだろ」
「うーん? よくわからないけど、経験ゼロの相手に負けはしないと思うよ?」
聞きなれない用語にクエスチョンマークを撒き散らしながらも、ルインは的確なコメントをする。そうだよな、普通はそうだ。ただ、チート補正だと多分、経験までも補ってくれるんじゃねえかな。
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