5章 披露

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 刺された胸を撫でる。実際に刺さったわけではないから血は滲まないし傷もできない。ただ貫かれた衝撃は残るから、青痣くらいはできるのだ。現に今、押されると痛い。 「すっげえな、2人とも。ルインは最強主人公だから当然だろうけど、悠斗もあんな動けるんだな」  観客席から降りてきた葵が、運動神経は同じくらいだったのに、と恨みがましい声で言う。それでも手を差し伸べてくれたので、ありがたく掴んで立ち上がった。 「まあ一月近く修行しましたし」  砂埃を払う動作とともに、清浄魔法をかけて服を綺麗にする。一月近くやっていれば、挙動に魔法を混ぜるのにも慣れてきた。 「それだけで最強の動きに食いついていけるか?」 「そこはテンプレでお馴染みの召喚特典。身体能力上がってるぞ」 「特典ねえ」  考え込んだ葵に、どうした、と視線で問いかける。実際にあるもんだなと思って、と答えが返ってきた。 「俺にもついてんのかな」 「召喚に使った魔法陣は同じだし、ついてんじゃねえの。翻訳はついてんだしあり得る」 「陣じゃなくて聖剣の鞘のお陰かもよ。それあるからお前も魔法が使えんだろ?」  確かに、そっちの可能性もあるか。戦闘する際には必ず持っていたから、どっちが作用しているのかわからない。 「『とくてん』とか『てんぷれ』とか、一体何の話?」 「気にすんな、こっちの話」  首を傾げながらもルインは素直に頷く。テンプレも特典も、異世界トリップもののスラングみたいなものだからなあ。 「で、満足?」  そもそもルインと戦ったのは、葵が『魔法対戦をナマで見たい』とか言い出しやがったせいだ。ある意味日課になっていた一日の終わりの手合わせを、真昼間からやらされる羽目になった。 「おう、満足。特典あっても最強には勝てないんだな」 「チート補正じゃねえみたいだから。折角だから補正掛けてもらいたかった。レベル上げダルい」  お前昔っからレベル上げ嫌いだもんな、と葵が笑う。そうなんだよ、だからRPGは低レベルクリアしてんだよ。 「付け焼き刃な奴に最強が負けちゃ名折れだろ」 「うーん? よくわからないけど、経験ゼロの相手に負けはしないと思うよ?」  聞きなれない用語にクエスチョンマークを撒き散らしながらも、ルインは的確なコメントをする。そうだよな、普通はそうだ。ただ、チート補正だと多分、経験までも補ってくれるんじゃねえかな。
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