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「8月30日の夜、王宮にてパーティーが行われる。貴族を集めて、勇者のお披露目をするらしい。ユウトは勿論、ギルドマスターであるアタシと〈白色〉にも招待状が届いた」
「8月30日……って今日じゃねえか!」
いくらなんでも急過ぎる、非常識だ。もしかしてヴェクティスが不機嫌なのはこのせいだろうか。
「五大貴族も集まる、よね。……俺、欠席したいんだけど」
「そうもいかない。安心しろ、呼ばれているのは〈白色〉だ。ローブと仮面をつける許可は取り付けた」
目に見えて表情を硬くしたルインの頭を撫でる。母親っぽい仕草だ。この間俺の頭を撫でたのは、これの延長なのかもしれない。
「五大貴族と因縁がある最強って……まさかテンプレ踏襲しちゃってる感じ?」
「そんな感じ」
俺にだけ聞こえる声で耳打ちしてきた葵に肯定を返す。いくら声を潜めていようとも、この距離だから耳のいいルインには聞こえそうだが、今は余裕がないらしく、聞こえていないようだ。
ルインの詳しい身の上話は今でも聞いていない。ただ、五大貴族の中でも雷を司るアルティト家に産まれたが、なにかあって竜の棲む森に捨てられた、と予測している。今までの話や反応を見る限り、あながち間違いではないだろう。
「そんなわけで、ユウト。アンタの髪色をどうにかしなくちゃいけない」
俺の方に向き直ったヴェクティスの言葉に首を傾げた。なにがどこに繋がって『そんなわけ』になるのかさっぱりわからない。
「勇者は黒髪黒目でなければならないんだ」
「それってつまり、黒染めしろって?」
顔が引きつったのが自分でもわかった。黒髪は似合わないんだよ。生まれてから16年間、側で見守っていた筈の親にすら、染めた色の方がしっくりくると言わしめる程度には。
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