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途中立ち寄ったコンビニから買ったアイスを食いながら、だらだらと歩く。明日からどうするのかとか、そんな他愛ない話をして。
「おい、悠斗、アレ……」
俺の家まであと少し、といったところで、恐る恐る葵が指示した。指の先には、おどろおどろしい空気をかもし出す、幾何学模様と円が組み合わさったもの――いわゆる魔法陣が。
その黒々とした輝きは、まるでフタの空いたマンホールのよう。現にアスファルトの地面にあるわけだし。
「これはアレだな」
「うん、アレに違いない」
「「勇者召喚(笑)」」
ちまたでひそかにだか知らないが、ファンタジーケータイ小説界隈で流行っているアレ。
「いやいやまて、おかしいだろ、アレってフィクションだろ?」
「画像なら合成ワロwwwwで終わるんだがなあ。まさか視覚が乗っ取られたか?」
「ハイハイ厨二乙」
葵の厨二病はいつになったら治るんだろう。いや俺も軽度に罹っているが。
「んじゃ何だよアレ?」
「ただの落書きだろ」
それにしては輝いてるのがおかしい気もするが。きっとトリックアートだろう。小説のことが本当になるわけもないし。
「よし悠斗、アレに乗ってこいよ」
「は?」
ニヤニヤとイタズラめいた笑みに、こちらも笑顔で返す。
「いやいや、お前が行けよ。異世界の危機を救いたいんだろ」
「俺は確実に脇役だろうが」
「なら俺が主人公だとでも?」
「容姿だけを考えれば。中身は……ああ、無いな」
「だろ」
お人よしの鈍感ヒーローなんぞやってられるか。俺はきっとヒールのが似合う。
ところで、あの魔法陣。さっきより近づいている気がするのだが。
「なあ悠斗、気のせいかもしれないが、アレ近づいてないか」
「奇遇だな葵、俺も同じことを思ってたんだ」
2人で顔を見合わせた。うん、こういう時は逃げるに限る!
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