1章 召喚

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 同時に来た道を引き返す。俺も葵も運動神経は同等だ。ちなみにクラスでは中の上くらい。運動はなんとなくできる方、なレベル。  イケメンはスポーツ完璧? そんなの都市伝説に決まってんだろ!  さっきはジワジワ迫ってきていたのだ、走ればさすがに追いつきはしないだろうと後ろを振り返ると。 「猛スピードで追いやがる!」  アイツ本気出してきやがった! 蛇行しながらも俺たちに追いつこうと、地面を滑ってくる。さっきは結構あった距離が、もうほぼない。 「……きっと、勇者は悠斗だよな」 「葵……?」  しんみりと、寂しそうに葵が言う。何事かと思ったら、突然葵が俺の足を引っかけてきた。当然俺は足をもつれさせて転ぶわけで。 「な――っ!?」 「わりーな悠斗! お前の犠牲は忘れな――いッ!?」 「させるかッ!」  魔方陣に足を呑まれた。吸引力がヤバい、抵抗しきれない。ワラにもすがる思いで、葵のズボンの裾を掴む。転んだ葵の足首を、ガッチリと掴んだ。 「お前だけ助かろうなんて思うなよ……?」  ニヤリ、極悪な笑みを浮かべて言えば、葵が青ざめた。 「離せゲスが、俺はまだ死にたくないぃぃ!」  俺だって死にたくないし、親友を犠牲にしようとしたお前にだけはゲスと言われたくない。  脚が完全に魔方陣に呑まれながらも、ズルズルと足を引っ張って、葵の腰あたりを掴む。力は俺のが上だから、抵抗があろうが引きずれる。 「やべぇ、やべぇって、超絶やべぇ!」 「元はと言えば、葵が余計なことをしたせいだろ!」  あのまま逃げ切れたかもしれないってのに! ジタバタもがいて逃げようとする葵を、意地でも離さない。  怖い、一人は嫌だ、死にたくない。そんな負の感情が込み上げてきて、必死に葵にすがりつく。  あり得ない、と思っていたフィクションの話。主人公そこ変われ、と思えたのは、あり得ないと確定していたからで、実際に体験したかったわけではない、のに。  世界が暗転した。
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