29人が本棚に入れています
本棚に追加
同時に来た道を引き返す。俺も葵も運動神経は同等だ。ちなみにクラスでは中の上くらい。運動はなんとなくできる方、なレベル。
イケメンはスポーツ完璧? そんなの都市伝説に決まってんだろ!
さっきはジワジワ迫ってきていたのだ、走ればさすがに追いつきはしないだろうと後ろを振り返ると。
「猛スピードで追いやがる!」
アイツ本気出してきやがった! 蛇行しながらも俺たちに追いつこうと、地面を滑ってくる。さっきは結構あった距離が、もうほぼない。
「……きっと、勇者は悠斗だよな」
「葵……?」
しんみりと、寂しそうに葵が言う。何事かと思ったら、突然葵が俺の足を引っかけてきた。当然俺は足をもつれさせて転ぶわけで。
「な――っ!?」
「わりーな悠斗! お前の犠牲は忘れな――いッ!?」
「させるかッ!」
魔方陣に足を呑まれた。吸引力がヤバい、抵抗しきれない。ワラにもすがる思いで、葵のズボンの裾を掴む。転んだ葵の足首を、ガッチリと掴んだ。
「お前だけ助かろうなんて思うなよ……?」
ニヤリ、極悪な笑みを浮かべて言えば、葵が青ざめた。
「離せゲスが、俺はまだ死にたくないぃぃ!」
俺だって死にたくないし、親友を犠牲にしようとしたお前にだけはゲスと言われたくない。
脚が完全に魔方陣に呑まれながらも、ズルズルと足を引っ張って、葵の腰あたりを掴む。力は俺のが上だから、抵抗があろうが引きずれる。
「やべぇ、やべぇって、超絶やべぇ!」
「元はと言えば、葵が余計なことをしたせいだろ!」
あのまま逃げ切れたかもしれないってのに! ジタバタもがいて逃げようとする葵を、意地でも離さない。
怖い、一人は嫌だ、死にたくない。そんな負の感情が込み上げてきて、必死に葵にすがりつく。
あり得ない、と思っていたフィクションの話。主人公そこ変われ、と思えたのは、あり得ないと確定していたからで、実際に体験したかったわけではない、のに。
世界が暗転した。
最初のコメントを投稿しよう!