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しばらく電車に揺られていると、冬魅が寝息を立て始めた。窓の外の景色はすっかり畑ばかりになっていて、太陽は少しだけ西に傾いていた。
到着まではまだ大分時間がある。そう考えると、俺も眠たくなってきた。周りを見てみるとそこそこ人がいる。この状況なら俺も寝たとしても荷物が盗まれたりはしないだろう。
目を閉じて体の力を抜く。そのタイミングで、冬魅が俺の膝の上に倒れ込んできた。疲れているのか、その衝撃で起きる気配も無く眠り続けている。その寝顔はさっき祥子さんから送られてきた猫に似ていた。
「……おやすみ、冬魅」
返事は無かった。俺は再び目を閉じて、冬魅を起こさないように楽な体勢になる。
1度大きくため息を吐いた。意識が少しずつ薄れていく。旅館に着いたら今日はのんびりとしていよう。明日は何をしようか。
何も決めていないのは、別に何をして過ごしても良いと思ったからだ。目的地も別にどこでも良かった。ただ冬魅と2人で過ごすのだけが目的だ。冬魅と2人でいられるのなら何をしても良いし、正直何もしなくても良い。
そして、その時間を何よりも大切にしたい。きっとその時間はかけがえのないものであり、限りのあるものだから。
そう、冬魅はああ言ったけれど。それでもいつか、冬魅と離れる事になったら。そういう事も考えておくべきだろう。行ってほしくないというのがもちろんだけどそれは俺の勝手な考えで、どうするかは冬魅の勝手だ。
だからその時までに少しでも大人になって、もう少しできる事を増やしておきたい。
そして、今度は俺が迎えに行くからと言えるようになりたい。
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