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「……っつー訳で、冬休み明けに出せ」
帰りのホームルームで加藤先生がそう言いながら俺達にプリントを渡してきた。他人事だとばかり思っていた事をいきなり突き付けられて思わずため息が出そうになる。
でもそこに書いてある進路希望の4文字は、やっぱりまだ俺の頭の中では現実味を帯びていなかった。
「じゃ、解散」
加藤先生が教室から出て行くと、クラスメート達が進路希望調査用紙を持って仲の良い人の所に向かっていく。この中で進路が決まっている人って何人いるんだろう……
「恵介って進路どうするんだ?」
「ん~、なーんも決めてねぇや」
恵介は軽く言い用紙を紙きれのように鞄に押し込んだ。少し安心した。
「どっちかっつーと就職だけど、再来年の景気なんてわかんねぇし。就職難でヤバそうだったら進学するかもな」
「就職難、か……」
いつも他人事のように聞いていた言葉だった。ニュースでしょっちゅうそんな言葉が出てた時期もあったなぁ。今ってそこの所どうなんだろう。
恵介が鞄を持って教室から出て行く。急がない所を見ると今日のバイトは休みらしい。今朝言ってた事から察するに平日みたいに客が少ない日はもうそんなに入ってないのかもしれない。
さてと、俺も部活だ。そう思って鞄を持ち歩き出そうとすると、隣の席の冬魅がこっちをじっと見ているのに気付いた。
「どうした?」
「一ノ瀬は、進学?」
そう言って希望用紙を見せてくる冬魅。
「う~ん、別に進学してまでやりたい事って無いんだよなぁ。でもちょっと前に今時は進学が当たり前みたいな事テレビで言ってたし……」
かと言って、とりあえず進学なんて学費の無駄遣いだ。進学するならそれなりの目的を持たないと……
「冬魅は?」
「……就職?」
「俺に訊かれても困るんだが」
首を傾げる冬魅にそう返す。そうだよな、こいつもあと何年かしたら社会に出て金を稼ぐんだよな……全く想像できない。
「私は進学しますっ!」
そんな事を考えると、横から静香が割り込んできた。
「静香は先生になるんだっけ?」
「イエスアイドゥー!」
「まぁ……頑張れ」
「むっ、何ですかその哀れみに満ちた目は!」
勉強が苦手で夏休みの宿題はもちろん最終日までほとんど手を付けない静香が教師か……なれるなれないの問題もあるけど、なったらなったで色々大変そうだ。生徒が。
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