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「全く、普段から授業をしっかりと聞いていれば赤点なんて取らないものを……」
部活の休憩中、響華がそんな事を言った。
「残念だけどそれができる人って案外いないぞ? っつーか俺らのクラスじゃ響華ぐらいだろ」
陽山高校の偏差値はそこまで高くない。生徒の大半は近いからという理由でここを選んだようなものだろう。俺や冬魅も含めて。
「失礼ね、私だってちゃんと聞いてるわよ」
「百合花は今日の数学ずっと恵介とゲームの話してただろ」
「あ、あれはその……そう、仕方なかったのよ」
言い訳なのか開き直りなのかわからない事を言う百合花。百合花は美術部だけど早く終わった時はよく体育館に顔を出していて、いつも響華を待っている。
他にも最近になって見学、というか遊びに来る女子は多くなった。その理由は女子がインターハイで4位になっただとか、イケメンの部員がいるからとかでは無い。
「ねねね冬魅ちゃん冬魅ちゃん、チョコ食べる?」
「……食べる」
女子生徒からチョコを貰って無表情で口に運ぶ冬魅。それを見て可愛いとか言っている女子達が俺にはまるで理解できない。
遊びに来る女子が多くなった理由は、イケメン部員でも強い女子部でもない。マネージャーの冬魅だ。どういうわけかこいつ、女子生徒に圧倒的な人気を誇っている。無愛想で口が悪くて色んな所の発育が遅れている冬魅のどこに好かれる要素があるのか不明だけど、入学当初はクラスの女子にもみくちゃにされていた事もあるので余程母性をくすぐられる何かがあるんだろう。
「もったいないなぁ一ノ瀬君、あんな可愛い子を振っちゃうなんて」
冬魅に聞こえないくらいの小さな声で百合花が言ってきた。「可愛いのか? あれ」なんて言ってしまうとこの場にいる女子全員を敵に回しかねないので思うだけにしておく。
「そればっかりは仕方ないだろ」
「そうだよ百合花、恋愛はそんなに単純じゃないさ。百合花だってまだ高橋先輩と付き合ってないじゃないか」
「も、もう、私の事は良いでしょ!」
響華の切り返しで途端に顔を赤くした百合花。高橋先輩というのは男子バスケ部の元部長で、半年ほど前練習試合を見に来ていた百合花を堂々とナンパした人だ。それからずっと良い関係なはずなんだけど、どうやらまだ恋人には発展していないらしい。
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