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「しかし高橋先輩も焦らすね。この間の休みもデートしたんだろう?」
「で、デートって言うか、その、ちょっと映画を観てご飯を食べただけで……」
「思いっきりデートだな」
むしろ高校生の男女が一緒に映画を観てご飯を食べて、それでデートじゃないって方がおかしい。というかもうこれは付き合ってるって言っても良いレベルだ。
「う~ん、そこまでしてるのにどうして百合花は告白されないんだろうか……」
「それはその、うぅん……」
百合花がそう言い淀んだ。どうやら百合花自身も何かしら思う事があるみたいだ。まぁ俺達から見てももう百合花は高橋先輩の事が好きだろうという事はわかってるんだけど。
高橋先輩が百合花に告白しない理由は、何となくわかる。あの人最初に付き合った人と結婚するって本気で言ってたからなぁ。だから恋人選びは慎重にするとも言ってたし。
とは言っても、さすがに俺もここまで遅くなるとは思わなかった。高橋先輩は3年生、もう数ヶ月したら卒業だ。3学期は途中から自由登校になるから学校に来る日なんて本当に残りわずかだ。まぁ卒業したからと言って会えなくなる訳じゃないんだけど……
「じゃなくて、私の事は良いの! 一ノ瀬君よ一ノ瀬君!」
百合花が両手を振って俺の方を見た。くそ、上手い具合に話を逸らせたと思ったのに……
「俺の話こそもう良いだろ……」
「他に好きな人とかいないの?」
「前からいないって言ってるだろ」
どうして女子ってそういう話が好きなんだろう。
実際に好きな人がいたとしても照れくさくていないって答える事は多いだろう。でも、あいにく俺の場合は本当だ。俺は10年以上前の初恋以来、そういう感情を誰かに抱いた事が無い。
「本当にいないの? なんで?」
「なんでって言われてもなぁ……」
好きな人がいないのに理由なんてある訳が無い。強いて言うなら……
強いて言うなら、俺は初恋の人を今でも忘れられていないからなのかもしれない。
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