1.幼なじみのいる日常

17/18
前へ
/425ページ
次へ
   冬魅はいつものように校門の前で待っていた。高校生とは思えない小さな背もだけど、学校指定の灰色のセーターを着ている人は他にほとんどいないのでよく目立つ。 「じゃ、帰るか」 「うん」  校門を抜けると、1歩後ろから冬魅が付いてくる。 「もうすっかり冬だな。寒いか?」 「んん、寒い」  冬魅は真夏でもマフラーを常備するほどの、常軌を逸したレベルの寒がりだ。それを考えるとその時から変わった服装はセーターと足のタイツぐらいなので、冬本番となった今体感だと俺よりも寒いかもしれない。 「下にジャージでも穿いたらどうだ?」 「……それは、みっともないから嫌」 「真夏にマフラーも結構なもんだぞ?」  あれはみっともないとかそういうレベルじゃない。見てるだけで暑苦しくなってきて、最早新手の嫌がらせだ。 「それでも、みっともないから嫌」  再びそう言う冬魅。こいつにもこいつなりの美意識的な何かがあるんだろう。 「別にそこまでみっともなくは無いと思うけどな、俺は」  スカートの下にジャージを穿く生徒なんてこの時期珍しくもない。別に校則で禁止されている訳でもないし。 「一ノ瀬は、どっちが好き?」 「……どっちがと言うと?」 「タイツと、ジャージ」  何かいきなり凄い事を訊かれた気がする。 「正直に言うと、俺はどっちもそんなに好きじゃない。普通の靴下の方が良いな。ふともも辺りの適度な露出加減とか」  そういう意味では冬は残念な季節だ……って女子相手に何を言ってるんだ俺は。 「それは、寒いからだめ」 「せめて気持ち悪いとか言ってくれ……」  真顔でそんな返事をされると余計恥ずかしくなってくる。っていうかダメって何だよダメって。 「タイツとジャージで選んで」 「どうしたんだお前?」  冬魅は普段そんな事を訊くようなやつじゃないはずだ。 「一ノ瀬が好きな方を着る」 「ズボンもタイツも着るものじゃないぞ」 「どっち?」  再び答えを迫ってくる冬魅。俺のツッコミなんてまるで聞いちゃいない。 「じゃあ……ジャージ?」 「うん」  冬魅は小さく頷くと鞄からさっき部活の時に穿いていたジャージを取り出して穿き始めた。 「着た」 「お、おう?」  首が縦じゃなくて横に動いた。それにつられるように冬魅の首も横に傾いた。  
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

311人が本棚に入れています
本棚に追加