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冬魅はいつものように校門の前で待っていた。高校生とは思えない小さな背もだけど、学校指定の灰色のセーターを着ている人は他にほとんどいないのでよく目立つ。
「じゃ、帰るか」
「うん」
校門を抜けると、1歩後ろから冬魅が付いてくる。
「もうすっかり冬だな。寒いか?」
「んん、寒い」
冬魅は真夏でもマフラーを常備するほどの、常軌を逸したレベルの寒がりだ。それを考えるとその時から変わった服装はセーターと足のタイツぐらいなので、冬本番となった今体感だと俺よりも寒いかもしれない。
「下にジャージでも穿いたらどうだ?」
「……それは、みっともないから嫌」
「真夏にマフラーも結構なもんだぞ?」
あれはみっともないとかそういうレベルじゃない。見てるだけで暑苦しくなってきて、最早新手の嫌がらせだ。
「それでも、みっともないから嫌」
再びそう言う冬魅。こいつにもこいつなりの美意識的な何かがあるんだろう。
「別にそこまでみっともなくは無いと思うけどな、俺は」
スカートの下にジャージを穿く生徒なんてこの時期珍しくもない。別に校則で禁止されている訳でもないし。
「一ノ瀬は、どっちが好き?」
「……どっちがと言うと?」
「タイツと、ジャージ」
何かいきなり凄い事を訊かれた気がする。
「正直に言うと、俺はどっちもそんなに好きじゃない。普通の靴下の方が良いな。ふともも辺りの適度な露出加減とか」
そういう意味では冬は残念な季節だ……って女子相手に何を言ってるんだ俺は。
「それは、寒いからだめ」
「せめて気持ち悪いとか言ってくれ……」
真顔でそんな返事をされると余計恥ずかしくなってくる。っていうかダメって何だよダメって。
「タイツとジャージで選んで」
「どうしたんだお前?」
冬魅は普段そんな事を訊くようなやつじゃないはずだ。
「一ノ瀬が好きな方を着る」
「ズボンもタイツも着るものじゃないぞ」
「どっち?」
再び答えを迫ってくる冬魅。俺のツッコミなんてまるで聞いちゃいない。
「じゃあ……ジャージ?」
「うん」
冬魅は小さく頷くと鞄からさっき部活の時に穿いていたジャージを取り出して穿き始めた。
「着た」
「お、おう?」
首が縦じゃなくて横に動いた。それにつられるように冬魅の首も横に傾いた。
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