1.幼なじみのいる日常

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   バタフライ・エフェクトという言葉がある。  俗に言うカオス理論の1つで、ブラジルでの蝶の羽ばたきはテキサスでトルネードを引き起こすか、という意味で作られた言葉だ。  もう少し説明すると、極めて小さな差……誤差と言っても差しつかえないような差が、思いがけない方向へと発展して結果的に大きな差になってしまう、という意味で、同名の映画が10年ぐらい前にやっていた。  逆に言うと、全ての出来事は元をたどれば極々小さな事が原因、という理論。  例えば、今の状況をそういう風に言うと……  雨が降ったからだ。  雨が降ったから、俺、一ノ瀬一輝(イチノセ カズキ)は先日振った女の子が直前まで浸かっていた湯船に浸かる事になる。 「……お風呂、いただきました」 「は~い。あ、もうすぐご飯できるわよ、食べて行って?」 「……いただきます」  まだ湿り気のある長い黒髪を揺らしながら、そいつが俺の母さんに向かって頭を下げた。  そいつの名は冬空冬魅(フユゾラ フユミ)。高校生とは思えないほど色んな所の発育がよろしくない、俺の幼なじみだ。 「ほら、あんたもお風呂入っちゃいなさい」 「良いよ後で。着替えたから大丈夫」 「良いから入りなさい。追い炊きなんてガス代がもったいないわ」  母さんが台所から急かしてくる。冬魅が俺の隣に座ったので、俺はそれと入れ替わるように立ち上がった。ここで引き下がらないとうるさいので早いとこ折れた方がエコだ。 「ったく……」  俺はため息を吐いて窓から外を眺めた。急に振ってきた雨はまだ止む気配を見せない。朝はあんなに良い天気だったのに。  仕方なく2階の寝室に行き、下着を持って風呂場へ向かう。脱衣所で服を脱ぎ、湿気のこもった風呂場に入った。  風呂場は脱衣所と比べると湿度だけでなく温度もかなり高く、広さが倍だったら壁が見えないだろうというくらいの湯気だった。シャンプーの匂いが当然のように残っていて、よく見ると床には1メートルはあるんじゃないかと思うほどに長い髪の毛が1本落ちている。  シャワーを使って体を洗い、浴槽のふたを開けた。少々ためらったけど雨のせいで体が冷えていたので意を決してその中に入る。  珍しい事ではない。冬魅はよく俺の家に泊まっていたし、その時は毎回どっちかがこういう目に遭っている。  ただし、それは俺が冬魅を振るよりも前の話だ。  
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