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「どうしたんですか?」
「うちの子がね、陽山高校に行きたいって言うからちょっと色々教えてほしくって」
春川さんを勝手に20代後半ぐらいかなと思っていた俺は、その言葉で俺は少し驚いてしまった。子供が中学3年生って事は俺の母さんと大して変わらないぐらいじゃないのか?
「あれ、どうしたの?」
「あぁいや、何でもないです。えっと、教えるって勉強の事とかですか?」
「うん、うちの子勉強凄く苦手だからねぇ」
なるほど、親らしい悩みだ。とは言っても陽山高校は特別偏差値の高い学校では無い。髪の染色やバイトが許可されているとか、そういう自由な所がある分他の学校よりも希望する生徒が多いので入学が楽とは限らないけど……。
「じゃあそうだなぁ、1月の5日の日曜とか大丈夫?」
「……え?」
「あ、もしかして予定入ってる?」
春川さんが残念そうに首を傾ける。
あれ? 何かおかしいぞ?
「えっと、すみません。もしかして教えるって勉強そのものをですか? 陽山高校の勉強はこんな感じで~、とかじゃなくて?」
「えぇ。できれば家に来て教えてほしいんだけど……」
まさかの家庭教師。いやいや、俺誰かに教えるほど頭良くないぞ? 冬魅にはよく必死で教えてるけども。
「そ、それは専門の方にお願いした方が良いのでは……」
「それがその、あんまりお金に余裕が無くてね。一ノ瀬君頭良さそうだし、お願い!」
年上の人に手を合わせて頭を下げられるとどうして良いのか困ってしまう。
「わ、わかりました……でも俺、そんなに教えるの得意じゃないですよ?」
得意なら冬魅は今頃優等生になっているはずだ。
「ほんと? ありがとー! 早速連絡しなくっちゃ」
春川さんが嬉しそうにそう言い携帯を取り出して耳に当てた。
「あ、もしもしヒナちゃん? 昨日言ってた事だけど、1月5日の日曜日にお願いできたから。うん、じゃあね~」
……ヒナちゃん、だと?
そんな不穏すぎる通話を聞いた俺は、春川さんが携帯をしまうなり質問した。
「あ、あの~……お子さんって、女の子ですか?」
「えぇ、そうよ。あ、彼女が心配しちゃうかな?」
「い、いえ、それは大丈夫なんですが……」
寧ろ心配してるのは俺だ。中学生の女の子だと……? うわぁ、どうしよ。色々と大丈夫なのかそれって……。
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