2.聖夜、無茶振り、出逢い。

6/40
前へ
/425ページ
次へ
   そんな訳で今年のクリスマスイブ。俺がバイトから帰ってやった事はまさかまさかの中学校の教科書を見る事だった。  まぁ言っても所詮は中学生の勉強だ。俺だって去年までやっていたし、今の方がよっぽど難しい事を習っている訳で。  …………。 「……やばい」  つまり何が言いたいかというと、半分以上忘れていた。数学や理科はそれなりに得意だから良いとしても、英語と社会は中々にヤバい。英語にいたっては今高校でやってるやつの方が簡単なんじゃないかと思えてくる。  しかも春川さんに伝え忘れてしまったけど、俺は推薦入学なんだ。一般入試を受けていないんだ。入試でどんな問題が出たのかもまるでわからないんだ。面接しかやらなかったんだ。 「……やばい」  もう1度そう呟き、俺は新しい大学ノートを開いた。教えるためにはまず自分が勉強して教えられる程度まで知っておかないといけないんだなぁ、なんて当たり前の事をようやく学んだ。 「カズ~、ご飯できたって」 「あぁ、わかった」 「うわ、珍し。宿題じゃないよね?」  机に向かっている俺を見て三葉がそう言いながら近寄ってきた。俺が開いている教科書が高校の物じゃないと気付くと大袈裟に首をかしげる。 「進学の反対語って何だっけ?」 「お前は何か勘違いをしてる」  別に俺が来年から中学生に戻る訳じゃない。って言うか何でそんな発想が出てくるんだよこいつは。 「じゃあどうして中学の教科書で勉強なんてしてるの?」 「バイト先の人の子供に勉強教える事になったんだよ」 「ふぅん……あ、カズ、鎌倉幕府って今の教科書は1185年なんだよ?」 「……は?」  もう1度俺は教科書に目を落とした。1192年、良い国作ろう鎌倉幕府。実に覚えやすい語呂合わせ。 「……さすがの俺でもそれは嘘だとわかるぞ?」 「ちょっと待っててよ」  三葉が部屋から出て行き、しばらくして自分の教科書を持って戻ってきた。 「ほら」  そこに書いてある文字は、なんと『良い箱作ろう鎌倉幕府』だった。 「は、箱って何だよ……」 「ね、1185年でしょ?」  確かに三葉の言う通り、鎌倉幕府が開かれたのは1185年になっていた。  
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

311人が本棚に入れています
本棚に追加