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勉強に対する自信を一気に無くした俺は、夕食を食べ終えた後家から出て外を歩いていた。決して三葉に「勉強教えてあげたんだからお菓子買ってきて」と言われたからではない。言われた事は間違いないけど。
「ありがとうございました~」
サンタ服のコスプレをした店員に見送られコンビニから出る。1年に数回程度しか雪の降らないこの地域ではホワイトクリスマスなんて滅多に無い。寧ろ雨が降る事の方が多い程だ。
空を見上げると、西の空に浮かぶ半月が目に入った。半月には上弦の月と下弦の月があって、今の月は日が経つにつれて欠け、新月に向かっていく半月……下弦の月らしい。
「……クリスマスイブに何やってんだろ、俺」
何か急に悲しくなってきた。朝から夕方までバイトをして、終わってから中学の勉強。同い年の人達は今頃彼氏や彼女とキャッキャウフフしてるというのに、俺は本来する必要の無い事を勉強……。
「……やばい、泣きそう」
冗談のつもりで言ったその声は、驚く事に本当に泣きそうだった。それに気付くと目頭が熱くなってくる。
やばい、目に涙が溜まってる。別に本当に悲しい訳じゃないのに。
仕方ない、どこかで少し時間を潰してから帰ろう。こんな半泣きの状態で帰ったら何を言われるかわからない。
家を通り過ぎ、ゆっくりと歩いていく。吸い寄せられるように向かったのは、いつか毎日のように遊んでいた公園だった。
ここに来るとやはり思い出してしまう。その名前以外もう思い出せない、サユの事を。
クリスマスにこんな寂しい気持ちになるなんて、と思ったけど、頭の中で1周してそれも良いやと思えてきてしまったので、俺はそのまま公園の中に入った。
「……あれ?」
公園の真ん中に、月明かりに照らされる何かがあった。縦に細長いそれが人の姿だと気付くまでに、大分時間がかかった気がする。
「あっ」
その人が俺に気付いてこっちを見て声を漏らした。その声でようやくその子が女の子だと言う事がわかった。
……もしかして変質者と思われてたりしないよな? いきなり大声を出されたらどうしよう。ここはさっさと帰っといた方が良いかも……。
「あ、あの、すみません」
そんな事を思っていると、その子が俺に近付いてきた。スラリと細く高い身長と、腰まで伸びた長い髪。顔は薄暗くてよく見えなかったけど、その姿は妙に神秘的に思えた。
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