1.幼なじみのいる日常

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   俺の家は元々5人家族で、俺には三葉の他にもう1人妹がいた。名前は二海(フタミ)、年齢は俺と三葉の間で、中学3年生。これは生きていたらの話だが。  二海は小さい頃に2階の窓から転落して死んでしまった。もう10年以上も前の話なので今更悲しくなったりはしないけど。  でも、母さんや父さん、三葉が冬魅に対して家族のように接しているのは、たぶんそれも理由の1つだ。母さん達にとっては娘、三葉にとっては姉のような存在……二海のいた場所にすっぽり入ってしまうような存在が、この冬魅だ。名前も少し似ているし。 「帰る」  カレーを食べ終えるなり冬魅がぽつりと言って椅子から立ち上がった。 「えぇ~、冬魅お姉ちゃん泊まっていかないの? お兄ちゃんも泊まっていってほしいって言ってるのに!」  三葉が言うと冬魅は小さく頷く。俺はそんな事言ってないけど、一々口を出しているとキリが無いので黙っておく。 「ごちそうさまでした」 「またいらっしゃいね。一輝、傘貸してあげて」 「あぁ。玄関にある黒いの使え」 「うん、ありがとう」  リビングから出る際に冬魅は俺達に向かって軽く頭を下げ、玄関に向かっていった。程なくして玄関のドアを開ける音がして、雨の音が家の中に入ってくる。そして、数秒でドアの閉まる音がして、同時に雨の音が消えた。 「冬魅ちゃん、ちょっとよそよそしくなっちゃったわね」 「カズのせいだ~」  三葉が意地の悪い笑みを見せながら言ってきた。冬魅の前では猫を被って俺をお兄ちゃんと呼んでいる三葉だが、いつもはカズと呼んでいる。ちなみに性格も普段はわがままで面倒なやつだ。猫被りモードの時はかなり気が利くけど、それはそれでちょっと気持ち悪い。 「悪かったな」  俺はそうとだけ返して空になった皿を台所へ持っていき、さっさとリビングから出ていった。  冬魅を振った事は、家族全員には伝えてある。一応みんな俺が悩んだ末に出した答えだとわかっているらしく納得してくれた。今三葉が言ったのも冗談だ。  でも、冗談でもそういう事を言われると胸が痛む。  冬魅は、確かにちょっとよそよそしくなった。と言ってもそれは仕方の無い事だ。告白されて、振ったのだから。こうして同じ屋根の下で同じテーブルを囲んで同じ料理を食べる事自体、普通はありえないような関係のはずなんだから。  
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