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辺りを見渡すと、向かい合わせの席が空いていた。他にも空席がいくつかあったのでそこに2人で座ることにした。
電車が発車する。市街より先へはあまり出掛ける事が無いので、すぐに見慣れない景色になった。
「さてと、後は何時間か乗ってるだけだ」
冬魅は俺の前に座ると、1度大きく伸びをした。これはすぐに寝そうだな……。
「寝てても良いぞ。俺もたぶんそのうち寝るし、どうせ終点だから車掌さんが起こしてくれるだろうから」
「んん、大丈夫」
そう言うと冬魅はスマホを取り出した。画面を眺めて少しだけ微笑む。
「そういえば、さっき祥子さんの携帯に何かしたのか?」
「うん」
そう言うと冬魅は立ち上がり、俺が横に置いていた鞄を取って自分が座っていた所に置いた。そして俺の隣に来ると、スマホの画面を見せてきた。
スマホには、ラインが起動されていた。その画面を見て、俺は少し笑ってしまった。さっき考えていた答えがそこに載っていたからだ。
冬空祥子という名前が入っている欄には、新しい友だちと書かれていた。たぶん、それこそが答えだ。それが誰かと言うと説得力が無くなるけど、誰かが言っていた。友達には、先輩とか後輩とか、そういうややこしいものが無いらしい。
「連絡先を教えたのか」
「うん」
そう言って冬魅は俺に画面を見せながらトーク画面を開いた。まだ白紙だ。
「何送れば良い?」
「俺に言われてもなぁ……」
とは言っても、きっと祥子さんからは送れないだろう。こういう状況で何を送るべきか……。
「まぁ、とりあえず去年動物園に行った時に連写してたパンダの写真でも」
そう言うと、冬魅は本当に去年のパンダの写真を引っ張り出して貼り付けて送ってしまった。ご丁寧にもその後に『パンダ』と解説まで添えて。
しかも驚くことに、送った瞬間に既読が付いてしまった。いやこれどうすんだよ。10年近く会ってなかった娘から貰った最初のメッセージがパンダってどうすりゃ良いんだよこれ。
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