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「こ、これは返事が見物だ……来ればだけど」
そう言い画面を眺めていると、メッセージが送られてきた。
『夏魅です』
先にそう送られてきて、俺と冬魅は思わず顔を見合わせた。まさか冬魅に妹がいる展開だと……と思ったら、次に送られてきたのは猫の写真だった。夏の名に見合わず雪のような真っ白な毛をした猫だ。カメラなんて気にもせずに寛いでいるような姿は、何となく冬魅に似ているような気がした。
『今ペットホテルから引き取りました。人を育てるには未熟すぎたので、小さな動物を育てています』
そ、それに実の娘はなんて返せば良いんだよ……。
「どうする?」
案の定冬魅が訊いてきた。
「と、とりあえず笑っとけば」
そう言うと冬魅が『ww』と打ち始めてしまったのでとりあえず消させて仕切り直し。どこでそんなのを覚えたんだこいつは。
「まぁあれだ、頑張って的な事を……いや、ちょっと違うか。ううん……」
悩んでいると、冬魅が横で文字を打ち始めていた。
「これで良い?」
そこには『今度会いに行っても良い?』と書かれていた。
「祥子さん泣かせる気か」
「うん」
そう答える冬魅は少し楽しそうで、文章を送ってからしばしば携帯を気にしていた。数分後返事が来ていたようだけど、俺は見ない事にした。もちろん、どんな返事が来たかなんて容易に想像が付くけど。
「……なぁ、冬魅」
「何?」
冬魅が携帯から俺に視線を移した。
「その、正直冬魅がどう考えてるのかもわからないけど……もし礼司さん達と暮らしたいって思う事があったら正直に言ってほしい」
俺はそう言うと、冬魅から目を逸らした。どういう顔をされるか、見る勇気が無かった。
「うん」
やがて、冬魅が小さく頷く。横目で冬魅が携帯に目を落としたのを確認してから俺は視線を戻した。
たぶん、これで良いと思う。そう言ってしまうと、俺はあの時から成長していない事になるのかもしれないけど。
彼らが傷付けたのが冬魅なら、それを許すかどうかを決めるのも冬魅だ。それで、例え冬魅と離れる事になったとしても……。
「こっちに引っ越してくるなら、考えても良い」
そんな事を考えていると、隣で冬魅がそう言った。俺は軽く笑って頷き、また視線を逸らした。
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