1.幼なじみのいる日常

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  「じゃあ今から簡単に面接を行います。私は春川有紗(ハルカワ アリサ)。あ、その制服は陽山高校ね」  そう言って春川さんは俺の服を指差した。 「あ、そうです。1年生の一ノ瀬一輝と言います」 「イチノセカズキ……っと、あら?」  名前を紙にメモした女性が何かを思い出したように顔を上げた。 「あなた、この前のベストカップルコンテストに出てた一ノ瀬君?」 「ぶっ!」  思わず吹き出してしまった。ベストカップルコンテスト。先月の学校祭で行われたイベントで、俺はそれに冬魅と出ていた。そのイベントで俺は冬魅に告白された訳だ。  確かにあのイベントは生徒だけでなく保護者やその他一般の人達も自由に見る事ができたけど、まさかこんな所に見てた人がいるとは……。 「そ、そうです……」 「そうよね! ねこの着ぐるみの子に告白された!」 「はい……」  女性がにこりと笑いながら言う。堅苦しかった敬語も消えた。ねこの着ぐるみの子とは言うまでも無く冬魅だ。今が面接中じゃなかったら俺は逃げ出していたかもしれない。顔を隠したくなったけど今は面接中なので必死で耐えた。 「そっかそっか、それなら合格ね」 「は?」 「女の子にあそこまで言わせる人なら信用できるわ」 「は、はぁ……」  よくわからんけど受かったみたいだ。 「それで、いつなら出れる? こっちとしては忙しい28日から31日はなるべく出てほしいんだけど」 「あぁ、28日からは部活が休みなので全部出れます。他の日も午後からなら大丈夫です」 「クリスマスは?」 「えっと、出れます」  春川さんが「え?」と言って首を傾げた。 「あぁ、忙しいのは夜だもんね。あっ、忙しいって別にそういう意味じゃないから」  何か勝手に納得してくれたみたいだ。間違ってる気がするけど。どういう意味かはあえて考えないでおく。 「う~ん、でも年内に1日は休んでもらう決まりなのよね。24日と25日ならどっちが休みの方が良い?」 「ん~……じゃあ25日でお願いします」 「うん、そうよね、疲れてるものね。あっ、クリスマスパーティーでって意味だからね」  やっぱり何か勘違いしてるみたいだ。まぁ良いか、別に行く先々の人に冬魅を振った事なんて伝える必要は無いし、勘違いされてても誰かが困る訳じゃない。  結局冬休み初日からバイトに出る事になった。これで冬休みはそれなりに充実しそうだ。  
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