51人が本棚に入れています
本棚に追加
<凪目線>
恋をしているだけでいい。好きでいるだけでいい。とマルコに言った時、たしか彼に言われた。
『ナギ、あんたは間違ってる。恋はもっと盲目的で、傲慢なものよ』
その言葉がやっと今理解できる。
穏やかにひとを愛するなんて、無理なんだ。
見ているだけでいいなんて、嘘なんだ。
それは私がまだ子供で、あのひとに追い付けていないから、なんだろうか?
でもそれなら、どんな風に愛するのが正解なんだろう。
ねえ片岡さん、あなたはそれを教えてはくれないの?
こんなにあなたが好きで、触れたいと思って、触れてほしいと思う。あなたが私でない誰かに微笑むたびに、激しく心が揺れる。
あなたが遠くを見るたびに、その胸に住んでいる人に嫉妬する。
あの時たしか私は、
『私はただ、好きでいたいの。彼の心に住んでいるのが、たとえ澪さんでも』
そんな愚かなことも言った気がする。
会ったことも見たこともない澪さんは、私の中でいつの間にか聖母マリアのような人になっていた。
夢の中で彼女はやさしく腕を広げ、彼をその胸に抱く。彼はまるで子供のように目を閉じていた。
その姿を見て、私は1人で泣いた。
店でマルコにそれを話すと、ふふんと笑われた。
『ナギもまあ、少しは大人のオンナに近づいたわね。穏やかなだけの恋なんて、無いのよ』
そう言ってマルコは、あとはワタルね。と呟いた。
『だってマルコ、片岡さんは私よりずっと大人だよ』
不思議そうに尋ねるとマルコは、ため息をひとつついて、
『そうでもないわよ。ワタルは男だから』
と言った。
最初のコメントを投稿しよう!