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<航目線>
NOVE LLA(ノヴェッラ)が街に出回る時期が来て、アルカーデのメニューにも登場することになったらしい。
『是非来てね』とラーラに言われていたので、ありがたく皆でお邪魔することにした。
絞りたての若いそのワインはとても爽やかで、馴れてない感じがいいなと思った。
壁際の席で煙草を吸いながら店の中を見ていると、ラーラがそっと隣に座った。
最近俺は、煙草を隠さなくなっていた。
『どう?ワタル。若くて新しいワインの味は』
『ええ、とても素敵ですね。若い、この香りが刺激的です』
ラーラは目を細めて言った。
『熟成させて、時間が経って初めて生まれる味もあるけど、これからどんな風にでも変わっていける若さって、ちょっと捨て難いわよね』
煙草の煙りをふーっと吐いて、ラーラは俺を見つめた。
それは・・・・・ワインの話ですよね。
『ワタルは何故、ナギの手を取れないのかしら?』
唐突に、ラーラが言った。
『・・・・・・え?』
『それは・・・昔の恋を引きずっているから?それとも彼女の若さが怖いから?』
俺は苦笑いするしかなかった。
『どっちも・・・・かな』
『そう・・・・だとしたら、とても不幸ね。恋人たちに明日がある保証なんて、どこにもないのよ』
俺は言葉を返せなかった。俺は歩き出せないでいる。それはやはり不幸なことなんだろう。
『見て・・・・・ワタル』
ラーラの視線の先には彼女がいて、ジャンニが彼女の手を握っているのが見えた。彼は何か囁き、鮮やかに彼女の頬にキスをした。
ラーラは俺を見つめた。
『ナギは若くて、誰からも愛される権利がある。そうでしょう・・・・?』
俺の胸の中はたしかにざわめいていた。あんな瞬間を俺は見て、これからずっと耐えていくべきなんだろうか?誰か若い男が彼女の手を取って歩き出すのを。
思わず俺は口にしていた。
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