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「お嬢様、起きてください」
「んー、待って。 もう少しいいでしょう?」
「なりません。 桜咲(サクラ)様はもうご用意を終えております」
眠たい……。
桜咲が起きてるならいいじゃない。
私に何の用事があるのよ。
ため息をついて起き上がる。
私を起こしたその人……執事は既にこの部屋にはいない。
私はいつも放ったらかしで、桜咲だけいればいいという考えが見え見えで。
自分が生意気な人間だってわかってはいるけれど、仕方ないわよね。
私みたいな状況に生きる人間なら誰だってこうなるわ。
「私に用事があったかしら?」
まだ覚めきらない目を擦って考える。
ベットから立ち上がるとクローゼットを開けた。
私は桜咲の双子の妹だった。
両親が何の仕事をしているのかは知らないけれど、この家は裕福らしい。
そして後継者とやらになるのはもちろん姉の桜咲。
つまり私はイラナイ存在。
良く言えば桜咲の身代わりみたいな存在。
そう気がついたのは結構早い時期だった。
扱いが全然違ったから。
「お嬢様、朝食の準備ができました」
「ありがとう」
執事が朝食を持って部屋へ入る。
しかしテーブルの上にそれを置くとすぐに部屋を出た。
そう、例えばこれ。
桜咲には執事がべったりなのに私にはまるで。
とりあえず最低限の世話をして出て行く。
つまらないでしょ、こんなの。
毎日が全く同じことの繰り返し。
これからもそれが続く、とそう思っていたのだけれど。
ある日その生活に終止符が打たれた。
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