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だけど私はその手を取らなかった。
「あら」
「放っておけよ、そんなやつ!」
「それはできないわ、こんなに濡れて……」
自分より劣る女を哀れんでいるつもりなの?
どうせ自分の優しさをアピールしたいだけでしょ。
教養があって、優しくて、愛されてて……とにかく私とは正反対。
そんな彼女が堪らなく嫌いだった。
「いい、行って」
「そう? でも……」
「いいからっ!」
私が叫んだのに驚いたのか、桜咲はすぐに私から離れて行った。
劣等感っていうのかな。
とにかく何もかもが気に入らなくて。
そうして立ち上がった私は玄関へ向かう。
いっそ家出してしまいたい、とそう思ったから。
だけどそれは男の人にぶつかったことで遮られた。
「お前か、この家の娘というのは」
「え、誰……?」
私の手を掴むその人に恐怖を覚えてガタガタと体が震え始める。
「ふっ、俺か? 俺はお前を引き取りに来た……否。 買い取った、と言った方が正しいかな?」
…………!?
買い取った……?
何それ、あり得ないでしょ……そんなのっ!
「嫌っ、離してください! お父様もお母様もそんな事をするはず……!」
「諦めろ、お前は親にさえも愛されてなんかいなかったんだよ!」
「どうしてっ? お母様は? お父様はどこっ!?」
意味がわからない……!
直接会って話をさせてよっ!
男たちは、叫ぶ私を冷たい目で見下ろす。
いくら暴れても力ではかなわなかった。
悲しくて悔しくて怖くて……いろいろな感情が混ざり合って自分でもよくわからない。
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