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空を見上げれば雨が降りそうなどんよりとした雲が広がっている。
わざわざこの天気の日を選んで来たのにも勿論理由があって。
私がそこにいた証拠として残るあの手紙を雨に流してもらおうという企み。
自ら自分の居場所を知らせるような手紙を置いて行くのは心配ではあるけれど、ここは雨が降ってくれることを願おう。
そうして急ぎ足で帰っていれば、ちょうど置屋に着く頃合いに雨が降り始めた。
「かなんわぁ、雨やない」
「ほんま、雨の日は憂鬱やなぁ」
何処からかそんな声が聞こえてきたけれど、今の私からすればこの雨に感謝する思いだ。
「ただいま帰りました」
「あら、早かったんやね」
「はい、雨が降りそうだったので」
にこりと笑うと翠子さんに寄って行く。
そんな私を不思議に思ったのか「何やおしたん?」と首を傾げた。
「すみません、折角貰ったのに使わなかったので。 お返ししますね」
そうして渡されたままだったお金を差し出しすと、今度は苦笑いをした。
「返さんでええよ」
「え、でも……」
何度返そうとしてもいらないの一点張りで、受け取ってくれそうにない。
結局ありがたく頂いて置くことにした。
特に使い道を知らない私には貯金が一番だ。
もしかしたらいつか必要なときが来るかも知れないし、大事にとっておこう。
部屋へ上がれば中央にストンと座り込む。
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