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平然と答えてはいたけれど、流石に心穏やかではなかった。
何が、と言われれば勿論先ほど鉢合わせた藤堂さんのことなのだけれど。
まあ敬語を使っていたあたりばれてはいなさそうだ。
改めてホッとした。
このままここにいてもまだ当分は大丈夫そうだし、もう少しの間はお世話になろう。
そうしてお座敷の準備を始めようとしたときだった。
「失礼する」
窓を開けていたためか、やけに大きく聞こえてきたその声に思わず息を止めた。
低音でよく通る声。
それは紛れもなく土方副長のものだった。
そっと窓から顔を出すと案の定、そこには土方副長と後ろには藤堂さんの姿もあった。
やはりばれていたのか、それとも別の理由なのか。
今の私には判断をし兼ねる。
とりあえず話を聞かないわけにはいかない。
接待は翠子さんがしてくれるだろうから、後ろからこっそり聞くことにしよう。
すぐに階段を降り、翠子さんが話をしているのを確認してからお茶を入れに行った。
ばれないという試しはないが、あまり翠子さんだけに迷惑をかけるわけにもいかない。
「ごめんやす、お茶をどうぞ」
「ああ、悪いな」
「……ありがとうございます」
以外と見つからないものなのか、反応を見せることはなかった。
やはりそこは心配無いようだ。
あまりその場に居続けるのも良くないだろうから結局部屋へ戻ることにした。
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