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そうして部屋の襖を開けようとする。
そのときふと、後ろに誰かの気配を感じた。
新造仲間か、姐さんか。
そんなことを考えながら何気なく振り返れば、そこにいたのは前者でも後者でもなかった。
「ねぇ、君って今日芹沢さんに会いに来てた人だよね」
藤堂さんはゆっくりとこちらに近づくと笑いかける。
まさか二階まで上がってくるとは。
以外と常識のない……否、勇気ある人だ。
「へぇ。 またお会いするやなんて、奇遇どすなぁ」
「うん、まさかこんなところで会うとは思わなかった」
「………」
……それだけを言うためだけにここへ来たのだろうか。
もしそうだとすれば迷惑だとは思わなかったのだろうか。
島原の人間が部屋に客を招いたりしたと広まれば厄介なことになるというのに。
「ねぇ」
「へぇ、なんどすか?」
「君ってさ。 店で働いているとか言ってなかった?」
そうでした……。
今頃気がついても後の祭り。
やはり藤堂さんの前には出るべきではなかったようだ。
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